霊長類型の神経幹細胞産生に関わる遺伝子を探索するため、終脳特異的PAR3欠損マウス(Par3 cKOマウス)で認められる同型の神経幹細胞の過剰産生に伴って異常活性化しているシグナル伝達系を探求してきた。これまでに、Par3 cKOマウスの終脳を用いて一次シリアの形態異常、及び当該シグナル伝達経路の主要因子の分布異常を定量的に明らかにした。更に、このシグナル伝達系の阻害剤を生体投与した際の増殖率の変化を解析し、前述の異常活性化が神経幹細胞の過増殖の要因となっていることを明らかにした。これらの結果から、以下の事象を明らかにした:1)終脳の神経細胞産生においては、適切な数の神経細胞を産生するため、適切な時期に神経幹細胞の増殖を低減させて分化を促す制御機構があること、2)この増殖を促進するヘッジホッグシグナリングを制限するため、その反応の場である一次シリアの機能制御にPAR3が必要であること、3)この機構によって、適切な時期に神経幹細胞の増殖から分化への転換を行う上でPAR3が必須の機能を担うこと。これらの成果は、霊長類型の神経幹細胞産生に関わる分子機構の一端を示唆するものである。 以上の成果を論文発表すべく、2022年度も各種の新規リバイス実験やこれまでの結果を補強する追加実験を進めた。論文は無事に採択され、発生生物学分野で長い歴史と国際的な権威を有するDevelopment誌に成果を発表できた。これらの成果を学会でも発表した(ミニトーク、ポスター)。このように、上記のモデルマウスの有用性が明確化されたので、オミックス解析を通じた神経幹細胞の適切な分化調節に関わる遺伝子発現制御機構の追究など、更なる発展性を目指して解析を進める予定である。 一方、2022年度にも新しい共同研究先(国内1件・米国1件)にPar3 cKOマウスを供与し、神経幹細胞以外の研究でも新展開を目指している。
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