研究課題/領域番号 |
20K06895
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
小野 勝彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30152523)
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研究分担者 |
後藤 仁志 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20462202)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経回路形成 / 軸索ガイダンス分子 / 転写因子 / 網膜視蓋投射 / 前交連 / Olig2 / Slit/Robo / ephrin/Eph |
研究実績の概要 |
転写因子Olig2の神経回路形成における機能を解析している。マイクロアレイおよびRNAseqによるpathway解析から、軸索ガイダンス関連分子の発現に変化があることがわかったことから、Olig2欠損マウス胎仔を用いて神経回路形成を調べることとしたものである。なかでも、ephrin/EphシグナルやSlit/Roboシグナルにかかる分子の発現に変化がみられている。これらは、正中交差回路や局在的投射の形成にかかわる軸索ガイダンス分子である。さらに、申請者らはOlig2がephrinリガンドに対するEph受容体の発現を調節することで、視床皮質投射形成を制御することも明らかにしている(Ono et al., Developement, 2014)。これらの成果や予備的なデータをもとに、Olig2は神経回路調節のGlobal Regulatorの一つであることを実証するため、本研究課題を行う。 具体的には、Olig2欠損マウスを用いて個別の神経回路形成を丹念に調べていく。ephrin/Ephシグナルにより回路形成を調節されるものとして網膜視蓋投射に着目し、Slit/Roboシグナルにより調節される回路として前交連に着目する。いずれも、神経回路形成はDiIなどのトレーサーを用いて明らかにし、軸索ガイダンス分子分子の発現はin situ hybridizationとqPCRにより調べる。いずれも予備実験からは、回路形成に異常がみられる可能性が示唆されており、実験例を増やして明らかにしていった。その結果、下記の通り、網膜視蓋投射には異常がみられず、Olig2によるEphの発現調節には領域特異性があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の神経回路のうち、初年度は網膜視蓋投射を中心に解析した。網膜視蓋投射ではephrin/Ephシグナルにより局在的投射が調節されていること、Olig2は網膜の神経前駆細胞にも発現していること、の2点からこの回路に注目した。まず、Olig2ヘテロマウス同士を交配させて、胎齢15.5日目(E15.5)マウスを取り出してパラフォルムアルデヒドで固定し、その眼球に脂溶性蛍光色素DiIを注入した。これを2週間37℃に置き、その後、脳をスライスして中脳の上丘における軸索終末の分枝を組織学的に調べた。若干の例では、Olig2欠損マウスの方がより後部まで軸索が伸びている例もあったが、全体としては、大きな違いは認められなかった。つぎに、同じ時期のマウスの網膜で発現するEphA5とEphA6(上丘/視蓋で発現するephrinの受容体)の発現をin situ hybridizationにより調べた。Olig2欠損マウス、野生型マウスとも、網膜耳側部で強い発現がみられ、鼻側部では弱く発現していた。次に、網膜におけるEphの発現量を比較するため、qPCRを行った。E15.5のOlig2欠損マウスとOlig2を発現しているマウス(野生型とヘテロマウス)の眼球から全RNAを抽出し、これを逆転写したcDNAをqPCRに用いた(リファレンスにはβアクチンを用いた)。その結果、両者の発現量に大きな違いは認められなかった。異常の結果から、Olig2は網膜視蓋投射の形成には、大きなかかわりは無さそうであると結論付けられた。上述の通り、網膜視蓋投射の形成を、軸索トレーシングと分子発現の側面から調べた。その結果、Olig2欠損マウスでは網膜視蓋投射は正常に形成されていることが明らかとなった。Olig2によるephrin/Ephの発現調節は、領域特異性があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
注目した2つの神経回路のうち、網膜視蓋投射はほぼ正常に形成されていたことから、今後は前交連の形成に着目する。予備実験からは、(1)野生型マウスでは、E14.5 ~E15.5 の時期に正中交差する線維がみられて前交連の形成が始まること、(2)前交連が正中交差する領域の脳室層にはSlit2の発現がみられること(E14.5)、(3)Olig2欠損マウスでは、前交連を形成する神経線維は正中交差できないものの正中線までは届いていること(E17.5およびE18.5)、また(4)正中線から遠ざかるような線維も見られること、を明らかにしている。このように、Olig2欠損マウスでは、明らかに前交連の形成に異常が認められる。マイクロアレイ解析からは、Olig2欠損マウスの前脳ではSlit2の発現が上昇していることが示唆されている。 今後の解析の方向としては、Slit2の発現に着目して軸索の挙動を、in vivoとin vitroとで解析する。前交連の線維は、Igスーパーファミリー分子であるTAG-1を発現していおり、野生型マウスの前交連線維はTAG-1とRobo2とを共発現する。これらの分子発現を指標として、in vivoでは野生型マウスでの前交連の形成過程とOlig2欠損マウスでの形成過程を経時的に調べる。またDiIを用いた軸索トレーシングも、時期を早めて正中交差する時期の軸索挙動を調べる。また、in vitroではE14.5 ~E15.5 の前脳基底部の細胞を培養し、これら2つの分子を共発現する軸索に着目して、Slit2に対する突起伸長や成長円錐の反応を明らかにする。また、qPCR法により前脳基底部でのSlit2の発現を調べる。これらの実験を通して、Olig2欠損マウスにおける前交連形成異常とSlit/Roboシグナルの関係を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
軸索ガイダンスに関連する試薬を購入する予定であったが、業者に在庫がなく海外発注となったため、今年度注文する予定である。
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