研究課題
タウタンパク質の異常凝集は認知症発症の主要因の1つである。凝集の最終形態は線維であるが、その前に出現する中間凝集体が毒性に関わる。中間凝集体は多様な分子種を示すことから、本研究の根本的問いを、「中間凝集体が構成する多様な分子種のうち、どれが毒性を示すのかの解明」とした。この問いを解明するため、本研究では中間凝集体がもつ特異的なコンフォメーションに結合できる1本鎖核酸「タウアプタマー」を用いて、毒性分子種の同定をする。具体的には(1)中間凝集体に結合するタウアプタマーの作製 (2)タウ凝集形成モデル細胞の確立 (3)アプタマーによる凝集阻害、細胞毒性阻害作用の検討 の3つを行う。2020年度は(1)と(2)を並行して進めた。アプタマーは標的の特定形状にフィットして結合する。タウは凝集に伴ってコンフォメーション変化が起き、特定の配列が露出する。このことは(1)で行うアプタマー作製には、中間凝集体に共通の配列を標的にすれば良いことを示している。そこでまず本研究では、ある程度の幅を持たせた中間凝集体を抗原とした複数のタウ凝集抗体を作製した。さらにそのエピトープを同定した。その結果、タウC末端部位が中間凝集体の共通エピトープであることを見出した。そこで次にC末端ペプチド及び1本鎖DNAランダムプールを調整した。次年度はこの共通エピトープを標的としたタウアプタマーの作製を行う。タウ凝集形成モデル細胞の確立のため、本年度は、タウ変異体の過剰発現を培養細胞で行い、サルコシルに不溶性のタウ凝集体の観察と細胞生存の低下を再現した上で、上記のタウ凝集抗体を用いて本細胞で中間凝集体が形成されることを観察した。したがって、次年度移行に行うタウアプタマーの評価を行う体制の構築を前進させた。以上より、2020年度はアプタマー作製および評価系にあたる準備を進展させた。
3: やや遅れている
2020年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書への記載に則り、本年度は、(1)タウアプタマーの作製と(2)タウの凝集が観察できる培養細胞の確立に係る実験を並行して行った。(1)タウアプタマー作製のため、タウ中間凝集体の抗体を作製・解析することで、多様な分子種で構成される中間凝集体に共通して表面に露出する配列を同定した。この配列で構成されるペプチドの調整、アプタマーの候補となる1本鎖DNAの調整を行った。したがって、2020年度は(1)で行うタウアプタマーの作製の準備を完了できた。その上で、アプタマーによるタウ凝集阻害作用をin vitroで効率的に解析できる原子間力顕微鏡での評価系を確立した。(2)培養細胞のモデル作製においてもタウ中間凝集体抗体を適用することができ、中間凝集体が観察される培養細胞を見出すことに成功した。この細胞では、これまでに見出されていた細胞生存の低下も再現され、タウアプタマーを評価できる培養細胞モデルの確立を前進させた。このように2020年度は、タウアプタマー作製および評価体制構築の準備が確実に成功・前進しており、来年度からの研究が円滑に進められるようになった。最終年度である2022年度に一定の結論を得られるようさらにペースアップして研究を進める。
2020年度の研究より、タウ中間凝集体に結合するアプタマー作製のための準備が完了したので、2021年度では、まずランダムな配列で構成される1本鎖DNAプールとタウC末端ペプチドを混合し、核酸-ペプチド結合体を作る。その後、結合したDNAを抽出する。これらの作業を複数回繰り返し、ペプチドに強固に結合するタウアプタマーをセレクションする。セレクションしたアプタマーと組み替えタウを混合・インキュベーションし、凝集させる。どのような凝集体が形成されているかを評価することで、中間凝集体を減少させるアプタマーを同定する。また、2020年度に引き続き、培養細胞モデルの確立を目指した研究を行う。一方、本研究の根本的な問いは、細胞死に関連する中間凝集体の同定である。この問いに答えるにあたり、アプタマーとは異なるモダリティを使用した検討を組み合わせれば、より信頼性の高い結論を導けると考えられる。本課題の研究者は、タウ中間凝集体抗体を複数同定している。したがって、これら抗体を異なるモダリティとして実験に用いれば、細胞死に関連する中間凝集体の同定をより明確にすることができる。そこで、信頼性の高い毒性種の同定を最終年度に行えるように2021年度よりタウ抗体を用いた評価も開始する。
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