研究課題
タウタンパク質(最も長いアイソフォームは441アミノ酸残基で構成される)の異常凝集は認知症発症の要因であり、中間凝集体がその毒性本体と考えられている。本研究の根本的問いは、中間凝集体が構成する多様な分子種のうち、どれが毒性を示すのかの解明である。これまでに、タウ凝集時に外側に露出するタウ配列として370-441アミノ酸残基を同定し、さらにアプタマー候補物質の作製を行ったので、2021年度は370-441アミノ酸残基で構成されるペプチドとアプタマー候補物質との結合を観察したが、結合できる条件は見出せなかった。その一因として、この実験に使用した370-441残基は72アミノ酸から構成され、複雑な立体構造になり得り、アプタマーとの結合に負の影響を与えている可能性があると考えた。そこでタウの外側に露出するアミノ酸残基を371-440残基からさらに狭める実験を実施した。その結果、370-441アミノ酸残基のうち、10残基程度が凝集時において特に外側に露出することを見出した。さらに、2021年度は上述のような直接的な方法ではなく、間接的にアプタマーと凝集タウとの結合を観察するため、アプタマー候補物質のタウ凝集阻害作用を検討した。その結果、アプタマーの候補物質はタウ凝集を阻害しないことが見出された。したがって、候補物質の中にタウと結合できるアプタマーは含まれていない可能性が示唆された。一方、アプタマ―以外のモダリティを用いたバックアップ実験として、タウ凝集抗体を用いた検討も実施しており、2021年度は顆粒状タウオリゴマーという比較的大きな中間凝集体に結合する抗体を新たに同定した。今後は新規に作製するアプタマー候補物質に加え、この凝集抗体も用いて、どの中間凝集体が大きく毒性に寄与するのかの検討を試みる。
3: やや遅れている
2021年度は、上述の研究実績の概要に記載した実験を実施した。その結果、今回作製したアプタマーは凝集阻害をしないことが観察された。また、この結果を反映してると考えられるが、このアプタマーは、凝集時に外側に露出するタウC末端(370-441アミノ酸残基)を有するプペチドと結合しなかった。このように、実験は確実に実施されたが、予想された結果を得ることはできなかった。また、交付申請書に則り、タウ凝集抗体を用いたバックアップ実験も確実に進めた。具体的には、リコンビナントタウタンパク質を用いてタウを凝集させ、その後ショ糖密度勾配遠心法により様々な形態のタウ中間凝集体を得た。この中間凝集体それぞれとタウ凝集抗体との結合を観察した。その結果、小さいオリゴマーには結合せず、顆粒状タウオリゴマーという大きい中間凝集体に結合するタウ凝集抗体を見出した。今後はこの凝集抗体も使用しつつ、本研究の根本的問いである、中間凝集体が構成する多様な分子種のうち、どれが毒性を示すのかの解明を進める。このように、交付申請書に則った実験を確実に実施しているが、結果は予想通りとはいかないものもあったため、やや遅れているという評価にした。
2021年度までの研究により、タウ凝集を阻害するアプタマーは得ることはできなかったため、2022年度は異なる核酸ライブラリーを使用し、再度、タウ凝集阻害等を検討し、何が毒性タウになり得るのかの考察を試みる。一方、バックアップ実験において顆粒状タウオリゴマーと結合する抗体を得ることができたため、2022年度はこの抗体を使用し、凝集と毒性との関連を考察する。一般的に抗体はその巨大な分子量から細胞外タンパク質を標的とする。タウはもともと細胞内で凝集するタンパク質であるが、凝集体の沈着した細胞内から細胞外にタウseedが放出され、近くの正常な細胞に取り込まれることで凝集が広がっていくとされている。このことはタウ抗体の主な標的は細胞外のタウseedであると考えられる。一方で、タウ凝集体は細胞外より細胞内に圧倒的に多く存在しており、細胞内のタウを標的にすべきという見解もある。そこで本研究では、どの中間凝集体が毒性に関与するのかと併せてそれは細胞の内外どちらのタウに起因するのかの検討も試みる。以上より、2022年度はアプタマーに加え、タウ凝集抗体を用いた検討も実施し、タウによる毒性作用の考察を行う。
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