研究課題/領域番号 |
20K06898
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
斉藤 治美 玉川大学, 脳科学研究所, 特任助教 (20311342)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚 / 遺伝子ライブラリー / プロモーター / 大脳新皮質 |
研究実績の概要 |
動物の情動・行動の発動は、外界を感知し、その情報の価値付けによって決定される。外界を感知するための感覚機能は主に五感に分類されるが、あらゆる動物の五感は進化の過程で環境に適応して各々の動物特有の発達を遂げてきた。五感の情報処理機構の恒常的な働きは動物の生命の維持に非常に重要である。五感を介して入力する感覚情報は、神経回路を基盤とした情報処理がなされているが、そのメカニズムは動物や知覚の相違によって異なる要素と共通の普遍的な要素がある。 霊長類の脳の構造は、他の動物と構造的に大きく異なり、大脳新皮質が発達しており、高度な階級的な情報処理がなされる。視覚は霊長類で最も発達している感覚で大脳新皮質の約50%が視覚の情報処理に関わっている。本研究は、脳の構造として最も発達している霊長類の神経活動の基本的動作原理を明らかにすることを目的にマカクザルの前頭葉および第一視覚野から遺伝子ライブラリーを作成し、霊長類の大脳新皮質に特異的に発現する遺伝子を同定することを試みた。 本研究では、遺伝子解析を行うにあたってプロモーター・エンハンサー領域に着目した。プロモーター領域は組織や細胞種に特異的に遺伝子発現させることに重要な役割を果たしており、霊長類の脳内に発現する遺伝子には霊長類のみに存在するエンハンサー領域を同定することにより、霊長類にのみ存在する細胞種を特定し、神経活動の解析を行う為のツールの開発につながると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回、前頭葉、第1次視覚野に内在する細胞腫の特定とその機能を明らかにすることを目的に各々の脳のスライスあるいは、層特異的に採取した細胞からRNAを抽出し、CAGE libraryを作製した。解析の結果、前頭葉と第1視覚野に発現するプロモーター遺伝子の発現には相違が見られることを確認でき、また層特異的に採取した第1視覚野の細胞に発現する遺伝子は第1視覚野全層から採取した遺伝子の発現よりも更に限局していることが分かった。しかし、2020年度は、コロナの緊急事態宣言による実験の中断したこと、緊急事態解除後においても共同研究先である国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターに設置されているレーザー顕微鏡を用いた細胞採取も交通によるコロナ感染を危惧したことにより、遺伝子ライブラリーの作製は中断し、生理学的手法を用いた第1次視覚野の盲点領域内における充填知覚の情報処理機構の解析を集中的に行い、一定の成果が得られた。第1次視覚野の盲点は網膜から視神経が出ていく場所に対応する視野の領域で、この部分には光受容細胞が存在せず視覚情報が入力されない。それにも関わらず我々は盲点で視野に穴が開いているようには知覚せず、盲点の周辺と同じような色、明るさ、模様を盲点内部にも知覚する。このような知覚は盲点以外にも様々な状況で生じることが示されており、対象の弁別や同定に重要な役割を果たす面の知覚の機序の解明、大脳皮質内における情報処理機構の理解へとつながるものと考えられ、また、将来的に本研究を発展させ、細胞種特異的にターゲッテイングを行うことが可能なった際には、この経験を活かして遺伝子導入したマカクザルの脳内情報伝達機構・神経回路の探索を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに行った前頭葉および第1視覚野のCAGE libraryのデータ解析を進め、領野、層特異的に発現する遺伝子の中で、霊長類にのみ相同性がみられる遺伝子の同定を進めていく予定である。また、2021年度4月より京都大学・高等研究院・ヒト生物学高等研究拠点に移り、研究の目的を視覚の階級的情報処理のメカニズムを明らかにすることを課題とするのみでなく、情動が視覚を介した物質の知覚・認知にどのように影響を及ぼすのかを明らかにするという目的も加え、ヒト、マカクザルの大脳基底核に発現する遺伝子のエンハンサー・プロモーター遺伝子の解析も大脳新皮質の解析同様に行い、同定したプロモーター遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込むことによって細胞腫特異的に外来遺伝子を発現させることを可能にする発現ベクターの作製を集中的に行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由としてコロナの影響で計画通りの実験を行うことが困難であったため。今後の計画としてはプロモーター遺伝子の解析と細胞種特異的にターゲッテイングを行う為のウイルスベクターをの作製を行っていく予定である。
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