霊長類の知覚は視覚が非常に発達しており、霊長類の脳内神経回路網では階層的な情報処理の結果、外界の正確な情報をそのまま伝達してコピーするというよりも、むしろ情報が脳内で再編成されることによって複雑な物体画像の構築がなされていることが特徴である。本研究では、発達した大脳皮質視覚野を持つ霊長類が、どのように階層的な視覚情報処理を行っているのか、細胞種各々がどのように関わっているのかを明らかにするために、 1. マカクザルの第1次視覚野(V1)において細胞種特異的な機能解析を行う為のツールを作成することを目的に、前頭前野と共にCAGE libraryを作製し、両者の遺伝子発現に相違が有ることが確認できた。しかし、コロナの影響や実験施設の改造工事の為に、なかなか実験が進まず、ウイルスベクターを作成するための候補遺伝子の特定までには至らなかった。 2. 錯覚で知られる充填知覚は、抹消からの視覚情報の入力は無いにもかかわらず、周辺の色や形状の情報で補充され、物体が認知される現象である。この充填知覚の情報処理機構を明らかにするために、V1の盲点領域の神経活動をマルチ電極を用いて解析した結果、V1よりも更に高次の視覚野からのフィードバックによって盲点周辺の視覚情報がV1の盲点領域内に流入することが充填知覚に重要な働きを持つことが分かった。また更に、フィードバックによって送られてくる輪郭と面の情報は、盲点領域内において異なる細胞種が受け取っていることが分かった。このように、コロナの影響で、実験を行う十分な時間を確保することが難しい中、一定の成果が得られ、この結果は、充填現象を理解する為の重要な知見であると共に、霊長類の視覚認知において、大脳皮質内で高度な階層的な情報処理機構がどの様に行われているのか、理解を深める為にも役立つ。この研究成果を国際誌に投稿するために、現在、論文作成の最終段階にある。。
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