研究課題/領域番号 |
20K06901
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
金子 律子 (大谷律子) 東洋大学, 生命科学部, 教授 (00161183)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自閉症 / 性ステロイド仮説 / 動物モデル / CRMP4欠損マウス / 社会性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ヒト自閉症に類似した「社会性の低下」と「感覚異常」を持つ自閉症モデルマウスであり、かつこれらに性差が明瞭であることを報告したCrmp4-KO(KO)マウスを用いて、自閉症に性差を生むメカニズムの1つとして出されている「性ステロイド仮説」を検証することを目的としている。 これまでにKOマウスの雄に、社会性の低下など自閉症様行動の幾つかが現れることを報告した。しかしこうした行動実験は、生後6週にスタートするため実験期間が長くかかる。そこで本研究では、自閉症の表現型が出現したことを早期に判断できる解析法を検討した。その結果、母子間コミュニケーションの指標となる仔マウスの超音波発声(ultrasonic vocalization)の総回数および鳴き声の分類によるパターン解析の両方により、自閉症の特徴の判断が可能であった(投稿準備中)。解析法が決まったので、次に、エストロゲン様作用を持つbisphenol A(BPA)投与の影響を調べる実験を開始した。妊娠後期から授乳期に、妊娠・哺育雌マウスにBPAを含ませたクッキーを与え、ストレスの無い状態で仔をBPAに暴露した。なお実験ではヘテロKOマウスの掛け合わせにより出生した同腹の仔マウス(野生型とホモKOマウス)を用いた。超音波発声の解析は生後7日に行った。雌雄の野生型およびKO仔マウスのBPA暴露群と対照群間で超音波発声の比較を行った。コロナ感染症拡大により実験が中断したため未だ実験が終了していないが、BPAの影響が現れている傾向が認められたので、例数を増やしている。培養実験についても、マウス嗅球細胞由来の初代培養系を用いてTHニューロンやGABAergicニューロンを同定を行っている。現在、E2添加の影響を解析中である。以上より、今年度の実験は予定よりやや遅れているものの、計画に沿って進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、コロナ感染拡大により、大学構内への立ち入りが禁止となったため、実験が完全にストップした。そのため、予定より実験が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
BPA暴露により、雌のCrmp4-KO(KO)マウスに雄のKOマウスと類似した自閉症様症状が現れれば、自閉症の雌雄差発現に性ステロイドが影響するとする「性ステロイド仮説」を初めて支持する証拠が出せることになる。そのために、現在行っているBPA暴露実験を2021年度も続ける予定である。また雄のKOマウスでは嗅覚識別能力に行動上の低下(感覚鈍麻)の症状が出ること、さらに感覚鈍麻の原因が嗅球などでの広汎なニューロンの過興奮による可能性発見し、既に報告した。そこで、雄の野生型とKOマウス嗅球とで、遺伝子発現の違いに関する情報を得るため、トランスクリプトーム解析を行う。その後、それらの遺伝子発現の違いについて、リアルタイムqRT-PCR法により確認する予定である。個体レベル、培養細胞レベル、遺伝子発現レベルから、雄KOマウスで自閉症様症状が出現しやすいメカニズムの解明を進める。その際、「性ステロイド仮説」は自閉症の雌雄差をもたらす重要な候補仮説であると考えられるので、性ステロイドの影響による変化についての解析を、個体レベル、培養細胞レベル、遺伝子発現レベルで行うことにより、今後、自閉症の性差形成メカニズムについて多くの情報を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大による措置により、実験がストップした。また学会もオンラインとなった。そのため、次年度使用額に変更が生じた。2021年度は2020年度にできなかった委託解析を執行するので、次年度使用額を充てる予定である。
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