多くの動物は、体軸方向に体節構造をもつ。動物がスムーズな運動を実現するためには、隣接した体節の間で、筋収縮のタイミングや強度が適切に調節されることが必要である。本研究課題では、ショウジョウバエ幼虫をモデル動物として用いて、体節間で協調した運動を生み出すための神経回路機構について研究を進めた。カルシウムイメージング法を用いた介在神経細胞のスクリーニングにより、ぜん動運動の合間に活動するGABA作動性の介在神経細胞A31cを同定した。この細胞は、各神経分節に存在し、興味深いことに、全体節で同時に活動が上昇するburst活動と、引き続いて生じる尾側体節から頭側体節へ伝播する伝播活動の2つを示す。コネクトミクス解析によってこの細胞の下流の神経回路を調べたところ、A31cはGABA作動性介在神経細胞A26fを介して、Longitudinal muscleという体軸に直交する筋を支配する運動神経細胞を神経支配していることが明らかになった。A26fとLongitudinal muscleの活動パターンを調べたところ、共にぜん動運動の合間に多体節に渡って同時に活動していることが明らかになった。この活動の機能を調べるために、光遺伝学によってA26fの活動を阻害したところ、Longitudinal muscleがより収縮して、ぜん動運動の合間の時間が長くなり、運動速度が低下することが明らかになった。以上の結果から、ぜん動運動の合間の時間幅が、A31c-A26f回路によって調整されることによって運動速度が制御されることが示唆された。この成果は、従来詳しく調べられてきたぜん動運動の伝播速度制御に加えて、ぜん動運動の合間の時間幅を制御する神経回路が運動速度制御において重要であることを示しており、運動速度制御における体節間協調の新しい機構を明らかにするものとなった。
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