研究実績の概要 |
片側パーキンソン病モデルラットの線条体におけるΔFosBの発現を抑制した場合、L-ドパの薬理作用を減弱することなく、L-ドパ誘発性ジスキネジアの発現を有意に阻害することができた。行動実験後にモデル動物の脳を採取し、線条体における病理学的評価を行ったところ、一部のウィルスベクターにて報告されているような神経細胞毒性やグリア細胞の過剰な活性化は観察されなかった。また、同じく行動実験後に採取したモデル動物の線条体における生化学的解析においては、目的としたΔFosBの発現抑制が確認できたほか、L-ドパ誘発性ジスキネジアとの強い関連が報告されているリン酸化DARPP-32の有意な低下が見られた。以上により、ΔFosBはL-ドパ誘発性ジスキネジアの発現に深く関与し、治療の標的となり得ることが証明された。こちらに関しては、既に論文報告済である(Beck et al., Gene Therapy 2021)。 続いて、合成したデザイナーリガンドにより抑制を受ける遺伝子改変したGタンパク質共役受容体を、ウィルスベクター(rAAV-hSyn-hM4D(Gi))により片側パーキンソン病モデルラットの線条体に発現させ、線条体神経細胞の活動を抑制した場合、コントロールウィルスベクターを注入した動物群と比較して、こちらもLドパ誘発性ジスキネジアの発現を有意に阻害することができた。行動実験終了後の線条体における免疫組織化学では、ウィルスベクターによる神経細胞毒性は観察されず、安全面でも問題ないことが示された。 最後に、グルタミン酸受容体(NR2B)の発現を特異的に抑制するウィルスベクターを作成し、培養細胞(HEK293細胞)におけるノックダウン効果を見たところ、コントロール(scrambled)と比較して優位にNR2Bの発現を抑制することに成功した。
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