研究実績の概要 |
感覚皮質の臨界期可塑性の研究は、視覚野を用いた研究(Wiesel and Hubel, 1963)により始まったが、他の大脳皮質にも臨界期があることが知られると、一般に大脳皮質の学習のメカニズムの基盤と想定され、膨大な実験を通して多くの関与する分子メカニズムも明らかにされたが、臨界期全体がどのような大枠の中で如何に進んでいくのかという全体像は依然として不明瞭なままにとどまっていた。このような中、申請者は齧歯類のバレル皮質を用いて、生直後(P0)以降、視床皮質投射形成とその過形成からの退縮(P5以降)、P6以降の4→2/3層(L4→L2/3)投射形成に、それぞれ異なる神経活動と関与した可塑性、すなわち異なるスパイクタイミング依存性可塑性(STDP)が関与することを明らかにした。更に視床皮質投射の過形成からの退縮にはカンナビノイド受容体(CB1R)を介したSTDP が関与し、またP12-15以降、L4-L2/3シナプスでもCB1Rが関与したSTDPが出現することで臨界期が開始する事を示し、皮質内回路形成から臨界期開始に至るモデルを初めて提示する事ができた(Kimura and Itami, J.Neurosci, 2019, Viewpoints)。STDPのLTD成分は、視床→L2/3、L4→L2/3いずれのシナプスでもCBを介し、特に視床-L2/3投射ではeCBが投射制御に重要である事を明らかにしたが、eCBの実体は不明である。従来より、アナンダミドか、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)のいずれかで議論されているが、大脳皮質では結論は出ていない。そこで2-AGの合成酵素である、ジアシルグリセロールリパーゼアルファ(DGLalpha)を遺伝的に欠損する動物(DGLa-KO)を用いて以下の実験を行い、2-AG欠損下ではCB1依存性の現象が見られないかどうかを調べ、2-AGがeCBである可能性を検証する。
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