研究課題/領域番号 |
20K06915
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
青木 直哉 帝京大学, 薬学部, 准教授 (50525334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 記憶形成 / 刻印付け / 神経伝達物質 / アセチルコリン / ムスカリン受容体 |
研究実績の概要 |
ニワトリのヒナは、生得的に動くものを追いかける性質を持っており、孵化直後から近くにいる親を繰り返し追いかけることにより、愛着を形成し記憶する。この現象は刷り込み(刻印付け)と呼ばれる。刷り込みには大脳IMM(intermediate medial mesopallium)領域の働きが必須であり、IMM領域では刷り込みによって、いくつかの神経伝達物質の分泌量が多くなる。我々の研究により、それらの伝達物質の中でアセチルコリンがムスカリン受容体を介して重要な働きをしていることが明らかとなっている。本研究ではさらに、ムスカリン受容体のサブタイプ(M2~M5)の寄与を調べるために、サブタイプに特異的な阻害剤を用いた実験を行った。その結果、神経細胞を興奮性に調節するM3及びM5の阻害剤については、共に刷り込みの記憶形成を阻害した。一方、神経細胞を抑制性に調節するM2及びM4の阻害剤については、M2阻害剤は刷り込みを阻害したが、M4阻害剤では影響がなかった。また、それらのムスカリン受容体サブタイプのIMM領域での発現を、イムノブロッティング及びin situ hybridization法を用いて確認した。これらの結果から、興奮性のM3、M5と抑制性のM2によって、刷り込みの記憶形成に必要なアセチルコリン系のバランスが保たれていると考えられる。 これらのサブタイプが実際にIMM領域の神経細胞の活動にどのように寄与しているかを検討するための電気生理学的実験の準備を進めている。具体的には、神経活動と行動データの解析を行うために、ミリ秒単位で行動データを記録する円盤型の刷り込み装置を作成した。行動データを解析した結果、トレーニング及び、テスト時の学習過程を「生得的追随」、「学習によって獲得した追随」、「弁別」の3つに分けて、定量的に評価することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、刷り込みに必須の働きをしているムスカリン受容体サブタイプを同定する行動薬理学的実験、及びサブタイプの分布をin situ hybridization法を用いて調べる実験を行った。その結果、抑制性のM2と興奮性のM3、M5が、神経細胞の興奮し易さを量節していることが刷り込みの記憶形成に重要であることが示唆された。IMM領域内でのサブタイプの発現分布を明らかにしたことにより、阻害剤の効果、及び電気活動の発現分布による違いを解析できるようになった。 また、刷り込みでの行動をミリ秒単位で解析できる行動装置を作製した。それにより、今後進める電気生理学的実験において、従来の装置ではできなかった視覚刺激の提示や追随行動と神経活動の相関解析ができるようになった。さらに、行動薬理学的実験においては、これまでは阻害剤の影響を刷り込みの成否だけで検証していたが、この装置によりどの学習過程に影響しているかを検証できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
刷り込みに関わるムスカリン受容体サブタイプM2、M3、M5が実際にIMM領域の神経細胞の活動にどのように寄与しているかを検討するための電気生理学的実験を行う。前述の通り、行動解析のための装置は完成したので、実際に神経活動を記録することを始める。まずは、刷り込みトレーニング及びテスト時のIMM領域の神経細胞の活動を解析し、さらに、阻害剤の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
行動薬理学的実験が、予定よりスムーズに進んだために使用した動物、試薬が計画よりも少なかったため。また、電気生理学的実験の準備として、行動実験及び行動解析を優先して行ってきたため、電気生理学的実験に使用する電極等は購入しなかった。次年度より電気生理学的実験を開始して、それらの物品を購入し、研究を進める。
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