研究実績の概要 |
本研究の目的は、アストロサイトと呼吸ニューロンの相互作用が呼吸の揺らぎを生み出しているという仮説を検証することである。シミュレーションでは、アストロサイトと呼吸ニューロンの相互作用が全くない時には、それぞれの呼吸ニューロンは規則正しく活性化され、呼吸リズムの揺らぎは起こらなかったのに対して、相互作用がある場合には、相互作用の強さに応じて、呼吸リズムの揺らぎが生じた。しかし、最大相互相関係数(CCmax)で評価した呼吸ゆらぎとアストロサイトカルシウム変動の間の相関は、アストロサイトから呼吸ニューロンへの作用強度に応じて必ずしも大きくならず、大きなばらつきがあった。Cross recurrence plotを用いた呼吸ゆらぎとアストロサイト活動の非線形同期の定量解析では、ニューロン‐グリア間の相互作用がない場合でも、ネットワークが偶発的に非線形同期しているかのような振る舞いをすることがあり、呼吸ゆらぎとアストロサイトカルシウム変動の非線形な関係性を明示することはできなかった。動物実験は、グリア細胞特異的タンパク質GFAPのプロモーターによってカルシウム感受性蛍光タンパク質 CASE12(Whitaker, Methods Cell Biol, 2010)の発現が制御されるトランスジェニックマウスを用いて行う予定であったが、CASE12が十分に機能しなかったため、グリア細胞特異的タンパク質GLAST (glutamate aspartate transporter) のプロモーターによってカルシウム感受性蛍光タンパク質GCaMP3の発現が制御されるトランスジェニックマウスを用いたデータの解析を行った。結果、呼吸ゆらぎにアストロサイトカルシウム変動が何らかの関与していることは示唆されたが、その関係は非常に非線形であり、関係性を明示することは困難であった。
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