研究課題/領域番号 |
20K06919
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
島 康之 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 上級研究員 (60815885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 双極性障害 / 1細胞解析 / scRNAseq / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
双極性障害は病態メカニズムが未だ不明であり、病因となる神経回路や生理現象・遺伝子発現など生物学的理解が進んでいない。本研究では、視床室傍核(Paraventricular nucleus of thalamus: PVT)でミトコンドリアDNA(mtDNA)欠失が蓄積する双極性障害モデルマウスを用いて、気分調節機構のメカニズムを解析する。1細胞RNAseqや脳スライス電気生理を用いて、PVTの1細胞ごとにmtDNA欠失の進行を測定すると同時に、遺伝子発現解析または電気生理記録を行う。個々の細胞で病因の進行レベルと遺伝子発現・生理活性の変化を対応させる事で、抑うつエピソードと関連する現象を既存研究よりはるかに高い感度で検出する事が可能となる。さらに、PVTのセルタイプを分類し、各々のセルタイプの全脳軸索投射パターンのマッピングを行う一方、光遺伝学・化学遺伝学によるセルタイプ特異的な神経活動調節を行い、通常時および双極性障害における気分調節回路を推定・検証する。 本年度はscRNAseqによるPVTのセルタイプの分類、およびセルタイプ特異的な軸索投射パターンの解析を行なった。既存scRNAseq手法の中で最も高い遺伝子検出能力を持つQuartz-seq2を用い、PVTのセルタイプを分類した。その結果、PVT のセルタイプは前後軸に沿って前方(anterior PVT, aPVT)と後方(poseterior PVT, pPVT)の2種に分類されることがわかった。それぞれのセルタイプ特異的なCreマウスラインを入手し、アデノ随伴ウイルスを用いてセルタイプ特異的な軸索投射パターンを解析したところ、aPVTとpPVTの投射はほぼ重ならず、相補的に投射していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
scRNAseqを用いたPVTのセルタイプ同定を試みた。野生型マウスの脳スライスからPVTを単離し、プロテアーゼ処理で単一細胞に分散させ、Quarts-seq2を用いてscRNA解析を行なった。解析した2069細胞中、988細胞が神経であり、さらに隣接神経核のマーカーを発現する細胞を取り除いた605細胞をPVTを構成する神経細胞とした。主成分解析より、第一主成分に陽に最も貢献する遺伝子は前部PVT(aPVT)に、陰に最も貢献する遺伝子は後部PVT(pPVT)に強く発言しており、PVTの前後軸でのセルタイプの分布が主要な違いであることが示された。PVTの主要なセルタイプはaPVTに2種、pPVTに1種、PVT全体に分布する1種の計四種類が同定できた。 aPVT、pPVTにそれぞれCreを発現するマウスラインを用い、軸索の投射パターンを比較した。Cre依存的にEGFPを発現するアデノ随伴ウイルスをP V Tに投与し、セルタイプ特異的な軸索投射を、セクショニング2光子顕微鏡システムTissuecyteを用いて全脳イメージングした。さらに、得られたイメージをAllen Brain atlasの3Dモデルにあてはめることにより、投射先の正確なアノテーションが可能になった。これらの解析により、aPVTとpPVTの投射先が一部でしか重ならず、ほぼ相補的な投射パターンが見られた。 以上、昨年度はPVTの主要なセルタイプの同定と、全脳における軸索投射マッピングを行なった。これらの結果は、PVTのセルタイプ間の機能差を強く示唆していた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はPVTのセルタイプ間の機能差を解析する。DREADDシステムを用い、食欲制御や恐怖行動などにおけるPVTのセルタイプ間の機能差を解析する。また、Polg変異体を用いてscRNAseq解析を行い、気分障害モデルマウスのPVTにおける遺伝子発現変化を、セルタイプ特異的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19に伴う非常事態宣言により、実験室への立ち入り制限が長期間におよび、実験できる期間が当初の予定に比べ非常に短かかったため。
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