研究課題
統合失調症は幻覚や妄想などの陽性症状、感情鈍麻や自発性減退などの陰性症状を呈する精神疾患である。そのような症状は脳の機能異常によって起こると考えられるが、その本態をなす生物学的基盤はまだ明らかになっていない。本研究は、システム神経科学的アプローチで、統合失調症において顕著な異常が起こり、認知機能や社会機能と関連し、ヒトと非ヒト霊長類の両方に共通して存在する視覚認知行動に着目し、認知行動課題を遂行しているヒトと非ヒト霊長類の眼の動きと脳活動を調べることによって、病態を引き起こしている脳の視覚認知機能メカニズムにおける機能不全の詳細の解明を目指す。2021年度は、ヒトおよび非ヒト霊長類を対象とした実験データの解析及び、機能的磁気共鳴画像法による脳活動計測実験を行うと共に、研究代表者らが計測・集積してきた精神疾患の視覚認知機能及び脳画像のデータを用いた研究を並行して進めた。統合失調症の認知機能異常の背景にある脳病態について知見を得るために、拡散強調画像から得られる大脳白質構造の特徴と認知機能低下の関連を調べ、その成果はClinical EEG and Neuroscience誌に掲載された。また、統合失調症における視覚認知行動の異常および大脳灰白質構造の特徴的異常を定量化し日本生物学的精神医学会などで報告した。またこれまでの成果を含む複数の総説論文がPsychiatry and Clinical Neuroscience誌などに掲載された。機能的磁気共鳴画像法を用いて視覚認知行動中のヒト大脳皮質における活動領域の理解を進め、それらの成果を日本神経科学大会などの学会にて報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、統合失調症において顕著な異常が起こる視覚認知行動に着目し、ヒトの行動及び脳画像の解析、非ヒト霊長類を用いた統合失調症モデルの作出と解析を行う計画である。ヒトを対象とした研究では、機能的磁気共鳴画像法を用いて視覚認知行動に関連する神経回路を調べるための実験パラダイムを開発する計画であったが、視覚誘導性サッケード、滑動性眼球運動、フリービューイング行動に関連する神経ネットワークを調べるための実験系を2020年度に構築し、眼球運動の同時計測を実現している。2021年度は滑動性眼球運動と視覚誘導性サッケードに関わる大脳皮質領域、フリービューイング行動に関連する大脳皮質領域を明らかにし、学術集会にて報告している。2022年度は眼球運動関連領野における構造-機能連関などについて日本神経科学学会で報告予定である。非ヒト霊長類を用いた研究では、マカクサルを用いた視覚認知行動評価系を構築し、眼球運動のトランスレータブル指標としての有効性を確認し、それらの成果については既に2報の論文で報告している。2022年度はさらに解析を進め、新たに論文に投稿する計画である。本年度もCOVID19の影響もあったが、ヒトと非ヒト霊長類を対象とした実験に制限があったものの上記のとおり概ね順調に進展している。
2022年度のヒトを対象とした研究では、これまでに機能的磁気共鳴画像法と眼球運動の同時計測系を用いて取得した、視覚誘導性サッケード、滑動性眼球運動、フリービューイング時の脳活動と視覚認知行動のデータ解析をさらに進め、課題遂行時に賦活する脳領域と機能-構造連関などについて明らかにし、論文化を行う計画である。また、精神疾患患者を対象とした脳画像計測を行い、統合失調症に特異的に現れる脳活動及び活動連関の異常を同定する計画である。さらに、申請者らが計測・集積してきた、精神疾患の眼球運動と脳構造・機能画像のデータを用いた研究を並行して進め、行動異常の背景にある脳病態の理解を引き続き進める。非ヒト霊長類を用いた研究では、2021年度に実験の遂行に必要なトレーニングを終えた個体を用いた行動実験を行い、これまでの実験結果の再現性を確認し、行動実験の結果の論文化を行う計画である。また、統合失調症様の幻覚・妄想などを誘発する薬物を動物に投与し視覚認知行動を調べる。薬物の投与量・投与回数、引き起こされた眼球運動変化および、変化からの回復の時間経過の関係性を解析し、統合失調症モデル動物の作出を試みる。同様の変化が確認されれば、正常個体と統合失調症モデルの神経活動を比較研究に進む計画である。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受け、出席予定の学会が本年度もオンライン開催となり参加に係る旅費の支出がなくなった。また、COVID-19対策による出勤制限などの影響でデータ入力、資料整理などの研究補助のアルバイトの人員確保も難しく予定していた人件費の支出が減った。また、動物実験も影響を受け実験に係る費用の支出が若干減った。しかしながら、研究代表者および分担者にてデータ入力及び解析を進め、影響を見つつ実験も進めたため研究はおおむね順調に進展している。未使用額については、次年度に予定している実験及び成果報告費用に充てる必要があるため確保する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: - ページ: -
10.1111/pcn.13342
巻: 76 ページ: 1~14
10.1111/pcn.13311
細胞
巻: 54 ページ: 17-20
Clinical EEG and Neuroscience
10.1177/15500594211063314
https://byoutai.ncnp.go.jp/