研究課題/領域番号 |
20K06920
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
三浦 健一郎 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神疾患病態研究部, 室長 (20362535)
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研究分担者 |
竹村 文 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90357418)
松本 純弥 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神疾患病態研究部, 室長 (10635535)
長谷川 尚美 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神疾患病態研究部, リサーチフェロー (70865906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 視覚認知 / 眼球運動 / 脳神経回路 / 精神疾患 / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
統合失調症は幻覚や妄想などの陽性症状、感情鈍麻や自発性減退などの陰性症状を呈する精神疾患である。そのような症状は脳の機能異常によって起こると考えられるが、その本態をなす生物学的基盤はまだ明らかになっていない。本研究は、システム神経科学的アプローチで、統合失調症において顕著な異常が起こり、認知機能や社会機能と関連し、ヒトと非ヒト霊長類の両方に共通して存在する視覚認知行動に着目し、認知行動課題を遂行しているヒトと非ヒト霊長類の眼の動きと脳活動を調べることによって、病態を引き起こしている脳の視覚認知機能メカニズムにおける機能不全の詳細の解明を目指す。2022年度は前年度から引き続き、ヒトおよび非ヒト霊長類を対象とした実験及びデータ解析、機能的磁気共鳴画像法による脳活動計測実験からのデータ解析を行うと共に、研究代表者らが計測・集積してきた精神疾患の視覚認知機能及び脳画像のデータを用いた研究を並行して進めた。皮質下構造の体積と統合失調症の精神症状との関連及び視覚認知行動のメカニズムについての研究成果の一部がPsychiatry and Clinical Neuroscience誌及びNeural Networks誌などに掲載された。機能的磁気共鳴画像法と眼球運動の同時計測系を用いて取得した脳活動と視覚認知行動のデータ解析を進め、課題遂行時に賦活する脳領域と機能-構造連関などを明らかにし日本神経科学大会などで報告した。非ヒト霊長類を用いた研究では、統合失調症様の幻覚・妄想などを誘発する薬物を動物に投与し視覚認知行動を調べ、薬物投与により統合失調症様の眼球運動異常を呈することを示し、それらの成果の一部を日本生理学学会において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、統合失調症において顕著な異常が起こる視覚認知行動に着目し、ヒトの行動及び脳画像の解析、非ヒト霊長類を用いた統合失調症モデルの作出と解析を行う計画である。ヒトを対象とした研究では、視覚認知行動に関連する神経回路を明らかにする計画であった。機能的磁気共鳴画像と眼球運動の同時計測系を開発し、2021年度は滑動性眼球運動と視覚誘導性サッケードに関わる大脳皮質領域、フリービューイング行動に関連する大脳皮質領域を明らかにした。2022年度は眼球運動関連領野における構造-機能連関などについて解析を進め学会にて報告を行った。非ヒト霊長類を用いた研究では、2021年度までにマカクサルを用いた視覚認知行動評価系を構築し、眼球運動のトランスレータブル指標としての有効性を確認し2件の論文成果として既に出ている。2022年度においては、統合失調症様の幻覚・妄想などを誘発する薬物を動物に投与し視覚認知行動を調べ、薬物投与により統合失調症様の眼球運動異常を呈することを示し、日本生理学学会で報告している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度のヒトを対象とした研究では、これまでに機能的磁気共鳴画像法と眼球運動の同時計測系を用いて取得・解析し、明らかにしてきた視覚認知行動課題遂行時に関わる脳神経回路について機能-構造連関の追加解析を実施し、論文投稿を行う計画である。さらに研究代表者らがこれまでの研究で計測・集積してきた精神疾患の眼球運動と脳構造・機能画像データを用いた研究について、これまでに行ってきた精神疾患の眼球運動特徴と脳病態との関連について追加解析を実施し、行動異常の背景にある脳病態の理解を進め、その成果をまとめて論文投稿を行う計画である。非ヒト霊長類を用いた研究では、統合失調症様の幻覚・妄想などを誘発する薬物を動物に投与し視覚認知行動を調べる実験について、新たな個体を対象とした追加実験を行い、これまで2個体を対象とした実験で示してきた薬物投与の影響と、薬物の投与量・投与回数、引き起こされた眼球運動変化および回復の時間経過の関係性について再現性を確認し、論文投稿を行う計画である。その結果を受けて、正常個体と統合失調症モデルの神経活動を比較する実験へと進む計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受け、出席予定の学会がオンライン開催となり参加に係る旅費の支出が当初予定より減った。また、COVID-19対策による出勤制限などの影響でデータ入力、資料整理、実験などの研究補助に係る人件費の支出が若干減った。しかしながら、研究代表者および分担者にてデータ入力及び解析など研究を進めることで、研究はおおむね順調に進展してきた。本課題においては研究目的をより精緻に達成するための追加実験の実施が必要であるため補助事業期間を延長することとしたが、未使用額についてはそれら追加実験に必要な費用と、学会参加、論文投稿などの成果報告費用に充てる必要があるため確保する。
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備考 |
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部 https://byoutai.ncnp.go.jp/
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