本研究は脳状態に依存した大脳皮質ニューロンのダイナミクスの解明を目標としている。今年度は研究拠点を移動し、新天地で本研究を継続した。イメージング及び電気生理学的手法により複数ニューロン同時記録を行い、そのデータに潜む生理学構造を統計的機械学習の力で抽出することを基本戦略としている。今年度は睡眠中の大脳皮質において、個々のニューロンの発火パターンの定量化を試みた。時系列データでのクラスター的イベントの発生に用いられる統計モデルHawkes過程を電気生理学的データ解析に応用した。この応用により、覚醒と睡眠における大脳皮質ニューロンの発火特性が定量化することができた(bioRxivに投稿)。今後、このアプローチを大規模同時記録のデータにも応用し、ネットワーク構造の脳状態依存性を解明する。 研究期間全体において、神経生理学と機械学習の統合によって、脳状態による大脳皮質局所回路のスパース性の変化とその恒常性(Cereb Cortex 2020)、睡眠による大脳皮質ニューロンのクラスター形成(Neural Networks 2022)、睡眠による個々のニューロンのバースト発火とカルシム上昇(Plos One 2020)、従来法では見いだせなかった睡眠による発火強度パラメータ変化(bioRxiv 2023-1)を発見した。また、その過程で得た実験手法や解析手法は、身体状態と相互に関わる脳内の生理現象の発見にも貢献した(Cell Rep 2021; Cell Rep Methods 2022; bioRxiv 2023-2; iScience 2024)。
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