栄養状態の低下により生殖機能が低下した時のGnRHニューロンの活動の変化を検討した。GnRHニューロンでは抑制性の神経伝達物質であるGABAが成熟動物においても興奮性に作用するという特有な性質を持つことを明らかにしているが、栄養状態の低下により、生殖機能制御に関わるGnRHニューロンおよびストレス応答に関わるCRHニューロンの細胞内クロライド濃度維持機構が破綻し、GABA応答が変化するか検討を行った。栄養状態の低下のモデルとして、マウスに60%食餌制限(通常の60%量の餌を10日間与える)を負荷し、その影響を調べた。マウスに60%食餌制限を負荷することにより、体重が有意に減少すること、血中コルチコステロンが有意に上昇することが確認できた。60%食餌制限を負荷したマウスより、視床下部を含む脳スライス標本を作成し、グラミシジン穿孔パッチクランプ法を用いてGABAの平衡電位を記録することにより、細胞内クロライド濃度の変化を調べた。CRHニューロンでは食餌制限ストレスにより、GABAの平衡電位の脱分極側へのシフトが認められた(GABAの平衡電位 食餌制限なし:-60.6 mV、食餌制限あり:-51.8 mV)。よって、食餌制限ストレスにより、CRHニューロンへの抑制性GABA入力が弱まることで、CRHニューロンの活動性が高まり、視床下部-下垂体-副腎軸が活性化し、GnRHニューロンの活動および生殖機能に影響を与える可能性が考えられ、ストレスが生殖機能に影響を与えるメカニズムの一端を明らかにすることができた。GnRHニューロンのGABAの平衡電位の変化や活動性への影響も同様に調べており、今後引き続き検討を続けていく。
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