研究課題/領域番号 |
20K06930
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山田 大輔 東京理科大学, 薬学部薬学科, 助教 (10621302)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オピオイド / 情動神経回路 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らがこれまでに報告してきたオピオイドδ受容体アゴニストによる恐怖記憶の消去学習促進作用のメカニズムを理解するため、情動神経回路におけるオピオイドδ受容体の機能的役割を明らかにすることを目的として研究を行った。 まず、その活性化により不安様行動が誘発される内側前頭前野前辺縁皮質(PL-PFC)におけるδ受容体の機能を明らかにするため、脳スライスパッチクランプ法を用いて、選択的δ受容体アゴニストであるKNT-127を脳スライスに潅流する前後でのグルタミン酸作動性の興奮性シナプス伝達の変化について検討を行った。 その結果、KNT-127 (10 μM)の灌流により、自発的興奮性シナプス後電流(sEPSC)および微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)の頻度が有意に減少した。一方、同シナプス後電流の振幅と立ち上がり・減衰時間には影響は認められなかった。また、脳スライスを二連続刺激することにより誘発した興奮性シナプス後電流(eEPSC)の振幅比(ペアパルス比)は、KNT-127の潅流によって有意に増大した。これらの変化はいずれもδ受容体アンタゴニストnaltrindoleを処置することで消失した。さらに、KNT-127潅流により、ポストシナプス側の神経細胞に人工的に刺激電流を印加した際に生じる活動電位の発火数が減少すること、発火閾値が上昇することが明らかとなった。 以上の結果から、KNT-127はPL-PFCにおいて、δ受容体を介してプレシナプスからのグルタミン酸放出を抑制すること、神経細胞膜の興奮性を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画において、オピオイドδ受容体発現細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウスを作製することとしていたが、新型コロナウィルスの影響で未だ作製が完了していない。この代替案として、計画書に記載のδ受容体遺伝子下流に蛍光タンパクEGFPを発現する遺伝子改変動物を米国より導入した。しかし、こちらも新型コロナウィルスの影響で導入時期が大幅に遅れたため、進捗状況としてはやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた結果をもとに、PL-PFCから投射を受ける扁桃体において同様な検討を行うとともに、光遺伝学的手法およびδ受容体-Creマウスまたはδ受容体-EGFPマウスを用いて、δ受容体を発現する神経細胞を特異的に活性制御した場合におこる神経伝達の変化について検討を行う。 δ受容体-Creマウスは現在作製中であるが、δ受容体-EGFPマウスは既に導入が完了し、実験に使用する個体確保のため繁殖を行っている。実験個体が確保でき次第、PL-PFCおよび扁桃体に存在するδ受容体陽性細胞、δ受容体非陽性細胞それぞれからパッチクランプ記録を行い、δ受容体アゴニストに対する応答性などについて検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、参加予定であった学会がWeb開催となり、出張旅費が不要となったため。また、緊急事態宣言発出期間中の実験自粛のため、支出額が計画していた所要額未満となった。次年度使用額の使用計画としては、消耗品の購入費用として使用する予定である。
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