本研究では、申請者らがこれまでに報告してきた、オピオイドδ受容体(DOP)アゴニストKNT-127による抗不安様作用、恐怖記憶消去促進作用のメカニズムを明らかにすることによって、情動神経回路におけるDOPの機能的役割を明らかにすることを目的として検討を行ってきた。 昨年度までに、主要な情動神経回路のひとつである内側前頭前野前辺縁皮質(PL)から扁桃体基底外側核(BLA)への投射を興奮させると、不安様行動が誘発されることを見出している。今年度は、PL-BLA投射の興奮による不安様行動に対するKNT-127の作用を検討するとともに、BLA内の神経活動におけるDOPの役割を検討した。 野生型雄性C57BL/6JマウスのPLに、光感受性陽イオンチャネルChR2遺伝子を組込んだAAVを投与した。6週間後、PLの投射先であるBLAにLEDファイバーを留置し、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験中にBLAに青色光を照射して不安様行動を誘発した。この光刺激前にKNT-127を投与したマウスでは、光刺激による不安様行動が有意に減弱することが明らかとなった。この結果は、PL-BLA神経回路内のδ受容体の活性化が抗不安様作用に関わることを強く示唆している。 さらに、PLからの投射を受けるBLAにおけるDOPの機能をパッチクランプ法により解析した。BLAを含む脳スライスを作製し、BLA主要細胞におけるシナプス伝達を記録した。記録中にKNT-127を潅流したところ、興奮性シナプス後電流の振幅には変化がないものの、発生頻度が有意に上昇する細胞、減少する細胞、変化しない細胞が認められた。これは、BLA細胞の多様性を反映するものであり、DOPはBLA細胞の興奮と抑制いずれにも関わることが示唆された。今後、DOPによる抗不安・消去学習促進作用とBLA神経活動との直接的な関連性を明らかにすることが必要である。
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