研究課題/領域番号 |
20K06931
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
池田 弘子 星薬科大学, 薬学部, 教授 (70297844)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 摂食調節 / 血糖調節 / ドパミン受容体 |
研究実績の概要 |
肥満や糖尿病といった生活習慣病は様々な合併症をひき起こし、患者のQOLを低下させる。肥満人口や糖尿病患者数は、先進国のみならず世界的に増加しており、その対策は急務である。肥満や糖尿病の改善には、摂食行動や血糖値の調節機構を正しく理解することが重要であるが、その調節機構については不明な点が多い。本研究では、中枢ドパミン神経に注目し、エネルギー調節に重要な役割を果たす視床下部ならびにドパミン神経の投射先である側坐核のドパミンD1受容体およびD2受容体がどのように摂食調節や血糖調節に関与するか明らかにすることを目的としている。 令和2年度は視床下部外側野および側坐核のドパミン受容体が摂食調節ならびに血糖調節に関与するか検討した。まず、摂食調節における視床下部外側野の役割について検討した結果、視床下部外側野のドパミンD1受容体およびD2受容体はいずれも摂食行動を抑制的に調節することが明らかになった。また、側坐核ではドパミンD2受容体のみが摂食調節に関与することが示された。一方、血糖調節については、これまでに中枢のドパミンD1受容体は血糖調節に関与しないことを明らかにしているため、ドパミンD2受容体の役割について検討した。その結果、視床下部外側野のドパミンD2受容体を刺激することにより血糖値が上昇することが明らかになった。さらに、側坐核のドパミンD2受容体を刺激した場合にも血糖値が上昇することが明らかになった。以上の結果より、摂食調節において視床下部外側野ではドパミンD1受容体とD2受容体の両方が関与し、側坐核ではドパミンD2受容体のみが関与することが示された。一方、血糖調節にはドパミンD2受容体のみが関与し、視床下部外側野および側坐核のドパミンD2受容体を刺激することにより血糖値が上昇することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は年度初めにコロナウイルス感染症の影響で研究活動が大きく制限されたが、その後、研究を再開し当初予定していた研究を遂行することができ、以下のような実験結果を得た。 まず、摂食調節におけるドパミンD1受容体およびD2受容体の役割について検討した。視床下部外側野の役割について検討した結果、16時間絶食後の再摂餌量は視床下部外側野にドパミンD1受容体作動薬のSKF 38393を投与することにより減少し、この作用はドパミンD1受容体拮抗薬のSCH 23390を併用することで消失した。同様に、ドパミンD2受容体作動薬のquinpiroleを視床下部外側野に投与した場合にも再摂餌量は減少し、この効果はドパミンD2受容体拮抗薬のl-sulpirideの併用で抑制された。これらの結果から、視床下部外側野のドパミンD1受容体およびD2受容体を刺激することにより摂食行動は抑制されることが示唆された。一方、側坐核の役割について検討した結果、16時間絶食後の再摂餌量は側坐核にSCH 23390を投与しても変化しなかったものの、l-sulpirideを投与することにより減少した。この結果から、側坐核ではドパミンD2受容体のみが摂食調節に関与することが示唆された。 血糖調節においては、これまでに中枢のドパミンD1受容体は血糖調節に関与しないことを明らかにしていることから、本研究ではドパミンD2受容体に注目して検討を行った。その結果、視床下部外側野にquinpiroleを投与することにより血糖値は上昇した。同様に、側坐核にquinpiroleを投与した場合にも血糖値は上昇した。以上より、視床下部外側野および側坐核のドパミンD2受容体の刺激は血糖値を上昇させることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、ドパミンD1受容体およびD2受容体の作動薬や拮抗薬を用いることで、視床下部外側野や側坐核のドパミン受容体が摂食行動や血糖調節にどのように関与するかを明らかにした。令和3年度はこれらの作用が受容体特異的であることを確認するため、DREADD法を用いて選択的に視床下部外側野および側坐核のドパミン受容体発現神経の活性を変化させた際に摂食行動や血糖値が変化するか明らかにする。また、ドパミン受容体が各脳部位においてどのような神経に発現するのか生化学的手法により明らかにする。次に、ドパミン受容体による摂食調節および血糖調節がそれらの神経を介して発現するのか明らかにする。さらに、令和4年度には視床下部および側坐核のドパミン神経による摂食行動や血糖値の調節機構が肥満や糖尿病によりどのように変化するか、それぞれ病態モデルを用いて明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、年度初めにコロナウイルス感染症により研究活動が制限され、当該研究の開始が遅れた。その後、研究を推進し、当初目的としていたドパミン受容体による摂食調節や血糖調節について明らかにすることができたが、その調節機構にインスリンなどのホルモンが関与するかについてはさらに詳細な検討が必要である。令和3年度は、令和2年度の助成金と令和3年度の助成金を合わせて使用することで、令和3年度に予定している研究計画に加え、その調節機構にインスリンなどのホルモンが関与するかについても解明する予定である。
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