肥満や糖尿病などの生活習慣病は様々な合併症をひき起こすことが知られる。肥満や糖尿病の改善には、摂食調節機構や血糖調節機構を正しく理解することが重要である。本研究では、ドパミン神経に注目し、全身のエネルギー調節を担う視床下部ならびにドパミン神経の投射先である側坐核のドパミン受容体が摂食調節や血糖調節に関与するか明らかにすることを目的としている。これまでに、視床下部外側野や側坐核のドパミン受容体が摂食調節や血糖調節に重要な役割を果たすことを明らかにした。本年度は、糖尿病や肥満マウスにおいてドパミン受容体による摂食調節や血糖調節がどのように変化するか検討した。 1型糖尿病動物では摂食量の増加が認められた。また、この動物の視床下部において、摂食促進作用を示すneuropeptide Y (NPY)/agouti-related peptide (AgRP) のmRNA発現量が増加し、摂食抑制作用を示すproopiomelanocortin (POMC) のmRNA発現量は低下した。加えて、1型糖尿病動物の視床下部ではドパミンD2受容体mRNA発現量が低下した。さらに、ドパミンD2受容体による血糖上昇作用は1型糖尿病動物では認められなかった。 一方、2型糖尿病動物では摂食量に大きな変化は認められなかった。また、2型糖尿病動物では視床下部のNPY/AgRP mRNA発現量は減少し、POMC mRNA発現量は増加した。一方、2型糖尿病動物の視床下部ではドパミンD2受容体mRNA発現量に変化は認められなかった。さらに、ドパミンD2受容体による血糖上昇作用は非糖尿病動物の場合と同様であった。 以上の結果より、1型糖尿病では視床下部のドパミンD2受容体が減少することで、ドパミンD2受容体によるエネルギー調節機構が減弱しているものの、2型糖尿病ではそのような変化がおこらないことが示唆された。
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