研究課題/領域番号 |
20K06932
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
武藤 恵 関西医科大学, 医学部, 講師 (50298189)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 代謝型グルタミン酸受容体 / 海馬 / カハールレチウス細胞 / 細胞内カルシウム動員 |
研究実績の概要 |
代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)にはサブタイプが存在し、それぞれ機能と組織局在が異なる。mGluR特異的な作動薬・阻害剤によりグルタミン酸の機能の特定の部分のみを調節することが可能である。mGluRのサブタイプの一つmGluR1はGqタンパク質と共役し、細胞内Ca2+濃度上昇を介して種々の生理作用を発揮し、中枢神経系においては神経細胞興奮調節やシナプス可塑性に関わる。幼若期の海馬ではカハール・レチウス細胞(CR細胞)に集中して発現するが、その機能にはいまだ不明な点が多い。これまでの研究で幼弱海馬のCR細胞がmGluR1を介してCa2+を動員することを初めて明らかにしたが、本研究では幼弱海馬CR細胞のmGluR1について、他の受容体とのクロストーク、細胞の興奮性や海馬神経ネットワークに与える影響などを多面的に検討し、未知の機能の解明につなげる。 前年度までの研究により、小脳で報告されているGABAB受容体によるmGluR1増強作用はCR細胞では認められなかったので、2021年度はこれまで他組織や再構成系でmGluR1の機能への関与が示唆されているその他の受容体・チャネルに対象を広げて、相互作用の可能性を探る研究を進めた。 パッチクランプ法による解析については、電気生理学的にCR細胞を同定し、電圧固定法により膜電流を測定したところ、コントロールのGABAA受容体のアゴニストによる電流変化は認められたが、mGluR1受容体のアゴニストによっては基準の膜電流はほとんど変化しなかった。現在カチオン電流に対するmGluR1受容体刺激の効果を検討中である。またCR細胞上のmGluR1の活性化が海馬神経ネットワークへ及ぼす影響を検討するため、錐体細胞からの興奮性自発電流の記録も開始した。 これらの研究成果の一部は日本生理学会大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ca2+イメージングによる実験については、急性脳スライスを作成し蛍光イメージング法により細胞内カルシウム濃度を計測するこれまでと同様の手技を用いて行ったので、特に技術的な問題はなかった。予想された小脳で報告されているものと同様のGABAB受容体との相互作用は認められなかったが、検討の対象を広げて実験を繰り返したことにより、他の受容体のアゴニストによってmGluR1刺激後の細胞内カルシウム濃度上昇が増強されることが観測できた。 緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置に関連して、動物センター利用者や施設職員の感染を想定して学内で新規の動物購入抑制依頼があったため、動物購入数と実験回数をやや減らさざるを得なかった。 電気生理学的実験については、既に測定システムを構築していたので、例数はまだ蓄積できていないが、CR細胞での電流・電圧記録を予定通り開始している。細胞内液・記録プログラム等の検討を経て、脳スライス標品から、顕微鏡下に細胞の形態を確認しつつ過分極誘発性電流の存在からCR細胞を同定し、パッチクランプ法により電流・電圧計測を行った。 10月ごろより職場環境が改善し、マイクロスライサーの使用に制限をかけられるなどの恐れが無くなったため、マイクロスライサーの使用ができない場合に備えての単離細胞調整の試みは中止し、従来通りのスライス標品を用いた実験に専念した。その結果、膜電位固定時にCR細胞上のmGluR1受容体を活性化しても内向き電流はみとめられないことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までにほぼ予定していた全ての実験に着手できたので、2022年度としてそれらの完成を目指す。 カルシウムイメージングではmGluR1と他受容体との相互作用についての追加実験を行う。mGluR1による細胞内カルシウム動員を増強した受容体に対象を絞って、反応を媒介するサブタイプの同定、アロステリックモジュレーターの効果の有無を確かめる。 電気生理学実験では引き続きCR細胞上のmGluR1の活性化が海馬神経ネットワークへ及ぼす影響の検討を行う。CR細胞上のチャネル電流および抑制性シナプス伝達を遮断した状態で錐体細胞から記録される興奮性自発電流について、mGluR1アゴニスト投与後の変化を計測する。 実験結果を解析・考察し、総括したうえで報告・論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加した学会がコロナ禍によりハイブリッド開催となり遠隔参加したため、予定していた学会旅費は使用しなかった。物品費については、割合に関してはほぼ申請書の内容で使用したが、「新型コロナウイルスの緊急事態宣言への対応」として新規の動物導入停止依頼があり、新規の動物購入を抑制し実験回数を減じた結果、使用額は縮小した。2022年度は繰越額を消耗品費として残る実験に使い、研究を完成する予定である。2022年度の予算は本来の2021年度に計画していたものに使用する。
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