研究課題
大脳基底核と小脳はどちらも、随意運動の発現と制御において重要な役割を果たし、障害されると運動障害が生じることが知られている。また、どちらも大脳皮質から入力を受けて情報処理を行った後、視床を介して情報を戻すことにより、大脳皮質の活動を調節している。2022年度は、ヒトに近いモデル動物であるニホンザルにおいてパーキンソン病(PD)モデルを作製し、大脳基底核および小脳の神経活動を記録し、健常サルとの比較を行った。2頭の PD ニホンザルでは、無動と筋強剛は観察されたが、振戦は観察されなかった。大脳基底核の出力部である淡蒼球内節の自発発火を調べてみると、頻度は健常サルと違いはなく、オシレーションなどの異常な発火様式も観察されなかった。一方、大脳皮質運動野に電気刺激を加えて淡蒼球内節の応答様式を調べてみると、健常サルでは「早い興奮-抑制-遅い興奮」という3相性の応答が観察されるが、 PD サルでは運動開始の情報を担う「直接路」を介する抑制が消失していた。L-DOPA を投与して治療を行うと、症状が回復するのと同時に「直接路」を介する抑制が回復した。これらの結果から、運動開始の情報を担う「直接路」を介する情報伝達が上手く行かなくなることによって、無動の症状が発現することが示唆された。1頭の PD ニホンザルは、無動、筋強剛に加え、しばしば振戦を示した。PD の振戦に関係する神経活動は小脳から入力を視床核 Vimで観察され、定位脳手術によって破壊すると症状が改善することが知られているので、振戦が観察された際に小脳の出力部である歯状核の自発発火を調べたところ、振戦に同期したオシレーションが記録された。このことから、小脳の神経活動が振戦に関与すると考えられる。今後、大脳基底核および小脳の神経活動と振戦の発現との関係を詳細に調べ、 PD における振戦発現の神経メカニズムを明らかにしたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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