研究課題/領域番号 |
20K06936
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
植田 浩史 東北大学, 薬学研究科, 講師 (50581279)
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研究分担者 |
小林 長夫 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (60124575)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルカロイド / 全合成 / 二量体 / 酸素酸化 / 鉄フタロシアニン / 化学選択性 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体触媒を模倣した高活性酸素酸化触媒の開発を基盤とした二量体型高次構造アルカロイドの高収束的全合成の遂行を目的とする。近年の医薬リード化合物の枯渇問題を受け、多様な骨格を有する生物活性天然物に注目が集まっている。なかでも、天然化合物の約17%を占める二量体型天然物は、その多くが単量体と比べて優れた生物活性を示すため、特に注目されている。創薬を指向した二量体型化合物の効率的合成法の確立には、収束的合成を可能とするカップリング反応の開発が必須であるが、合成終盤における高度に官能基化した単量体同士のカップリングは容易ではない。このような背景のもと、鉄フタロシアニン触媒を用いた酸素酸化による汎用性に優れた新規カップリング反応の開発を基盤とし、二量体型高次構造アルカロイドの高収束的全合成に取り組んでいる。さらに、類縁化合物や誘導体の網羅的合成を通じて、医薬品候補化合物の創製を目指した。 1) アミノ酸由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、メリナシディンIVの高い酸化段階を有する単量体ユニットの合成に取り組んだ。今年度はインドールユニットとジケトピペラジンユニットとのカップリングを検討し、単量体ユニットの全炭素骨格の構築に成功した。 2) モノテルペンインドール由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、今年度はボアカンジミンBの単量体であるデオキソアポディン、ビプレイオフィリンの単量体であるプレイオカルパミンの合成研究に取り組んだ。デオキソアポディンの合成に関しては、予備的検討で確立した合成経路の最適化を行い、デオキソアポディンの量的供給に成功した。プレイオカルパミンの合成研究に関しては、デオキソアポディンの合成研究の過程で見出したインドールのC-Hアルキル化を適用することで重要な合成中間体である10員環化体の迅速合成法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) アミノ酸由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、メリナシディンIVの収束的合成経路の確立を目指し、これまでに単量体ユニットの全炭素骨格の構築に成功している。また、独自に開発した鉄フタロシアニン触媒を用いた酸素酸化によるインドール二量化反応の基質一般性を検証した結果、高い化学選択性を有することがわかった。この利点を活かし、天然物の全合成にとどまらず、ペプチドの二量化反応までその適用範囲を拡大した。その結果、トリプトファンを含む4-9残基からなる生理活性オリゴペプチドの酸化的二量化に成功し、その有用性を実証した。 2) モノテルペンインドール由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、ボアカンジミンBの単量体であるデオキソアポディンの合成研究に取り組み、予備的検討で確立した合成経路の最適化を行った。効率的合成法の確立により、単量体デオキソアポディンの量的供給に成功し、二量体型生物活性アルカロイドであるボアカンジミンBの全合成の足がかりを構築した。また、これらの成果は学術誌に掲載され、国内外で高い評価を受けた。 ビプレイオフィリンの単量体であるプレイオカルパミンの合成研究に関しては、デオキソアポディンの合成研究の過程で見出したインドールのC-Hアルキル化を適用することで、重要な合成中間体である10員環化体の迅速合成法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
1) アミノ酸由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、今年度に引き続きメリナシディンIVの合成研究を行う。まず、全炭素骨格を構築した単量体ユニットの酸化的修飾により、高い酸化段階を有する二量化の基質を合成する。その後、独自に開発した鉄フタロシアニン触媒による酸素酸化を合成した単量体ユニットに適用し、類縁化合物の中でも最も高い酸化段階を有するメリナシディンIVの世界初の全合成を達成する。 2) モノテルペンインドール由来二量体型生物活性アルカロイドの高収束的全合成に関しては、今年度に引き続きボアカンジミンBとビプレイオフィリンの合成研究に取り組む。ボアカンジミンBについては、本年度合成に成功した単量体ユニットとなるデオキソアポディンに対して、ピペリジン環上の酸化的修飾を試みる。その後、両ユニットの連結を伴った環化反応によってボアカンジミンBやボブツシンの世界初の全合成を目指す。ビプレイオフィリンの合成研究に関しては、本年度合成法を確立したインドール骨格を含む10員環化体への分子内C-H挿入反応を経た環化反応と続く間接的なC-H官能基化を経た渡環式環化反応により、単量体のプレイオカルパミンの迅速合成法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナウイルスの影響により、研究の中断や学会参加の断念・オンラインへの移行を余儀なくされた。そのため、予定していた物品費や旅費を使用できなかった。未使用の研究費に関しては、次年度の旅費に充てる予定である。しかしながら、次年度も引き続きコロナ禍で旅費の使用が困難な場合は、物品費に充てる予定である。
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