ナザロフ環化反応は、ジビニルケトンの4π-電子環状反応によってシクロペンテノンを得る方法として、その発見より半世紀以上が経過する現在でも活発に研究が進められており、基質制御による反応促進には端緒が見出されている。その一方で、活性化剤制御による不斉反応には、強力であるものの空気中での不安定性から取り扱いに難のある酸試薬が用いられているため、汎用性の面では課題が残されていた。そこで、本研究では、従来試薬の「使いにくさ」を払拭する温和な不斉ナザロフ環化反応の樹立を目的として、申請者が最近開発したビフェノール/ホウ酸触媒系のさらなる発展・展開を目指し検討を行った。 これまでに既報に従い合成した光学活性置換ビフェノールをホウ酸と加熱下混合したのち、室温にて反応基質であるジビニルケトンを作用させると、収率48%、72% eeにて対応するシクロペンテノンを生じることを見出していた。2022年度は、さらに熱的安定性を付与し強固なコンフォメーションをもつ光学活性置換ビフェノールを合成し、適用すると、50℃の加熱下でも同等の光学純度を保ちつつ(70% ee)収率を79%まで向上させることに成功した。この間の詳細については、日本プロセス化学会2022サマーシンポジウムおよび薬学会第143年会にて発表した。なお、薬学会年会では発表学生が優秀発表賞を受賞している。 また、2021年度にビフェノール/ホウ酸触媒系の新たな用途の探索を開始したが、2-aza-Cope転位反応については、2022年度に基質一般性を確認できたため、論文発表および学会発表を行なった。Fischerインドール合成については、ヒドラジンと対称ケトンとの反応についての検討を終え、さらに第四級炭素構築を可能とするインドリン合成に着手し、中程度の収率ではあるが適用可能であることを確認できた。
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