多発性骨髄腫は、加齢により罹患リスクの高まる血液腫瘍であり、その克服は超高齢社会に突入している日本にとって重要である。これまでに申請者は、独自に見出した14員環マクロライドcompound#13が骨髄腫細胞に対してin vitroならびにin vivoモデルでも有効であることを示してきた。その作用メカニズムを解明するべく、分子プローブを作成し、pull-down実験による生体内標的分子の同定を目標として研究を展開している。2021年度までcompound#13にアルキンタグを導入するべく検討を行っていた。しかし、閉環メタセシス(RCM)を鍵工程とする従来の全合成経路では目的の化学プローブ合成が困難であった。これは、アルキンタグを導入する位置に存在する官能基がcompound#13のものと異なると、アルキンおよびE-アルケン含有14員環マクロライド構造をRCMでは構築できなかったことに起因していた。そこで、E-アルケンを分子間Heck反応で構築したのち、分子内光延反応を利用することで14員環マクロライド構造を構築する神機合成経路を開拓することができた。2022年度では、新たに開発した新規合成経路の収率改善とともに、アルキンタグを導入した分子内光延反応前駆体の合成を完了し、分子内光延反応による骨格構築と化学プローブの合成を目指している。また、がん微小環境条件で選択的に薬剤を放出できると考えられるペプチドユニットの合成検討も実施し、合成を完了している。今後、その機能評価も行う。
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