研究課題/領域番号 |
20K06944
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山本 大介 北里大学, 薬学部, 講師 (10509970)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酸素付加型分子変換法 / 酸素分子 / マンガン錯体 / アミノヒドロキシ化反応 / 環境低負荷型分子変換法 |
研究実績の概要 |
環境・資源問題が深刻化する中、持続可能な文明社会を構築していくためには、環境低負荷型分子変換法の開発が求められている。特に化合物の分子変換法における最も基本的な反応の一つである酸化反応においては、所望の酸化反応を円滑に進行させるために当量以上の無機酸化物や有機酸化物を酸化剤として利用しなくてはならず、その結果、酸化剤由来の廃棄物が生成物以上排出されてしまう。こうした状況を踏まえ、我々は、最も理想的な酸化剤として捉えることができる大気中の酸素分子の活用に着目し研究を行ない、これまでに、ヒドロキシルアミン類の付加を伴う過酸化物合成法、オキシムの酸素付加型環化反応、ならびにオキソホスホリル化反応などを開発しており、いずれも空気中の酸素分子を直接利用した触媒的酸化反応である。このような経緯を経て、本申請課題における昨年度の研究によって、我々はブテニロキシスルホンアミドに対してマンガン錯体を作用させることによって触媒的酸素付加型アミノヒドロキシ化反応が進行することを見出している。 本年度の研究実績について示す。1. 昨年度の研究成果によって、本反応を円滑に進行させるマンガン錯体の基本骨格はすでに見出している。そこで、その触媒構造の最適化を検討した結果、触媒量1.0 mol%で反応を進行させるマンガン錯体の創製に成功した。2 昨年度に引き続き、基質一般性について確認を行い、広範囲の基質に対して、本反応が適用可能であることを見出した。3. 1、2に示した研究成果を基に、生理活性物質HPA-12の合成を行い、我々が見出した手法を鍵反応とした合成経路を確立した。 以上3点より、本年度は、本申請課題の中核となる研究成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成に向け、昨年度に引き続き、ブテニロキシスルホンアミドを出発原料と選定し、反応の詳細について検討を行った。当初、既存のマンガン錯体を用いた場合では、低収率であり、また、アルデヒドの副生が問題であった。そこで、錯体中心であるマンガン原子の電子的因子を変化させることを目的に、特異な酸化還元特性を有する分子群を配位子内に組み込いれることを計画し、様々な検討を行った。その結果、触媒活性の高いマンガン錯体を見出すことができた。本年度は、その基本骨格の最適化を行い、既存の錯体を凌駕する高活性マンガン錯体の創製を達成した。また、溶媒検討を通じて、反応溶媒としてエタノールを利用できることを見出し、環境低負荷型の分子変換法を確立することに成功した。さらに、確立できた反応条件は、比較的広範囲の基質に対して適用可能であり、芳香族、脂肪族、さらには複素環など、様々な置換基を有する基質に対しても、反応は良好に進行することが明らかとなった。 我々が見出した手法は、空気中の酸素分子を利用することによって、イソオキサゾリジニルアルコール類を合成する方法論である。一般的にイソオキサゾリジン環は1,3-アミノアルコール等価体として認識されており、有機合成化学上、有用なビルディングブロックである。そこで、本手法を用いて、セラミド輸送タンパク質(CERT)阻害剤であるHPA-12の合成を計画した。まず、本手法によって調製可能なイソオキサゾリジニルアルコールの窒素原子上の保護基を脱保護した後、還元的な手法によって窒素-酸素結合を開裂させ、母核となる1,3-アミノアルコールへと導いた。その後、脂肪鎖部分を導入し、所望のHPA-12の合成を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究成果によって、新規マンガン錯体の創製、さらには最適化を完了し、我々は本申請課題を飛躍的に進めることができた。また、本手法の基質一般性は広く、様々なイソオキサゾリジニルアルコール類の効率的な合成法も確立した。得られるイソオキサゾリジニルアルコール類は、医薬品のみならず、生物活性分子の部分構造であり、そして、有機合成化学上、有用なビルディングブロックとして認識されている。そこで、本手法を用いたセラミド輸送タンパク質(CERT)阻害剤であるHPA-12の立体選択的合成経路の確立も達成した。以上より、今後は得られた成果を基に、本反応の詳細な反応機構の解明、並びに、新たな分子変換法の開発を目指す。 1 反応機構の解明 我々がこれまで行ってきた、酸素付加型分子変換法は純粋な酸素分子を必要とせず、空気中の酸素分子を直接用いることが可能な手法である。すなわち、酸素分子の圧力に依存しない化学反応であると現在考えている。そこで、反応中間体の特定を目指し、研究を遂行する。また、詳細に解析される検討結果は、2に示す、新規酸素付加型分子変換法の開発に繋がると考えている。 2 新規酸素付加型分子変換法の開発 我々は、本年度の研究成果によって、新規マンガン錯体の創製に成功している。本錯体は、既存の錯体に比べ、非常に高活性であることから、他の分子群に対しても窒素-水素結合の活性化が行えると期待している。そこで、様々な含窒素化合物の創製を指向し、新たな酸素付加型分子変換法の探索を行う。
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