再生可能な資源である空気中の酸素分子を利用する分子変換法は、これまで有機酸化物や無機酸化物に依存していた酸化反応を一新しうるものであり、持続可能な社会の実現に求められる技術の一つとして注目されている。このような背景のもと我々は、独自に研究を重ねた結果、マンガン錯体に高い酸素分子固定化能があることを見出し、炭素骨格に酸素原子を導入できる方法論を報告している。そこで今回、様々な生物活性分子に含まれる窒素原子に着目し、酸素分子の付加反応を伴う炭素-窒素結合形成反応の開発を実現し、本手法を用いた生物活性分子の創出を目指し、研究に着手した。 初期的知見を得るため、基質であるブテニロキシスルホンアミドに対してMn(acac)3を適用したところ、アルデヒドの副生が問題となったが、炭素-窒素結合が形成されると共に空気中の酸素分子を基質へと付加でき、所望のイソキサゾリジン環を中程度の収率で得ることができた。そこで、収率、及び選択性の改善を目指し様々な検討を重ねたが、既存のマンガン錯体を用いた場合ではその改善は困難であった。以上を踏まえ、我々はマンガン錯体の触媒活性に大きな影響を与える配位子に着目し、さらに検討を重ねた。その結果、フェロセンを配位子に組込んだ新規マンガン錯体が高い触媒活性を有していることを見出し、EtOH中、1.0 mol%の新規マンガン錯体を適用することによって収率90%でアミノペルオキシ化反応が進行することを見出した。また、本反応は高い基質一般性を有していることも明らかにした。さらに、本手法にて得られたイソキサゾリジン環の有機合成化学的な有用性を示すため、p-Ns基の脱保護、窒素-酸素結合の還元的な開裂、ラウロイル基の導入を順次行うことによって、CERT阻害剤HPA-12の全合成を短工程で達成した。
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