研究実績の概要 |
Taiwanin類を始めとするアリールナフタレン型リグナンの中には,魅力的な生物活性を示すものが数多く知られている。そのため,従来から創薬研究におけるリード化合物として注目されてきた。一般に,多置換芳香族化合物の合成では,個々の置換基の位置化学を如何に確保するかが問題となる。定法とでもいうべき芳香族求電子置換反応の組み合わせでは,反応自体が立体障害の影響を受けやすく,構造異性体の混合物が得られたり,望む異性体が全く得られなかったりするなど,解決困難な問題に直面することも珍しくない。さらに,多環式骨格そのものの構築も容易とはいえない。こうした背景を踏まえ,新たな多置換芳香族化合物の選択的な合成戦略を確立すべく,ラクトールシリルエーテル類を出発原料とする多様な連続反応の開発を進めた。 本研究期間では,臭素原子で置換されたラクトールシリルエーテルのカスケード反応を検討し,酢酸-酢酸ナトリウム混合物中で加温すると4-アリール-1,2-ジヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸エステルが選択的に得られることを見いだした。さらに,種々の置換基をもつ類縁体の合成する中で,本分子骨格をもつ化合物が固体状態であっても蛍光を発することを見いだした。1-ないし3-モノヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸エステル類は固体中,溶液中を問わず弱い蛍光しか示さない。つまり,1,2-ジヒドロキシ構造およびその特異な1,2,3,4-四置換ナフタレン構造が明瞭な固体発光に必須であることを示した。また,アルケニルラクトールシリルエーテルやフッ素置換ラクトールシリルエーテルからそれぞれユニークな連続反応が進行することを見いだすと共に,含窒素複素環式芳香族化合物を与える連続反応が進行することも明らかにした。これらの検討結果は,「環の巻きかえ」戦略が多置換多環式芳香族化合物の合成法として優れていることを実証する成果である。
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