自然界には魅力的な生物活性を示す天然有機化合物が広く分布している。中でも,アリールナフタレン型リグナンや種々の芳香族ポリケチド類といった天然物は,複数の芳香環が縮環した多環式骨格上に,多様な置換基が位置を定めて配置されており,生物活性に対する興味と共に,有機合成の観点からも注目されている。一般に,多置換芳香族化合物の合成では,個々の置換基の位置化学を如何に確保するかが問題となる。定法とでもいうべき芳香族求電子置換反応の組み合わせでは,反応自体が立体障害の影響を受けやすく,構造異性体の混合物が得られたり,望む異性体が全く得られなかったりするなど,解決困難な問題に直面することも珍しくない。さらに,多環式骨格そのものの構築も容易とはいえない。こうした背景を踏まえ,我々はラクトールシリルエーテル類を出発原料とする多様な連続反応を体系的に開発することで,分子構造の多様性に対応しうる多置換・多環式芳香族化合物の合成法を提示することを目的として研究を行った。 本研究期間では,これまでの研究対象であった三種の反応,すなわち,ハロゲン化ラクトールシリルエーテル,アルケニルラクトールシリルエーテル,フッ素置換ラクトールシリルエーテルの反応を検討し,それらの適用範囲を明らかにした。また,新しいイソインドール合成法を見いだし,その応用として非対称に置換されたベンゾ[a]ウラジン誘導体の効率的な合成法の開発に至った。
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