研究課題/領域番号 |
20K06948
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
三浦 剛 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (40297023)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機分子触媒 / 不斉反応 / 水素結合 / ベンジル位 |
研究実績の概要 |
環境汚染が問題視される現在,有機分子触媒は低毒性で環境負荷が少ないため,環境に優しい有機合成手段として注目を集めている。また,有機分子触媒は水や酸素に対して安定なために取扱い容易で,穏やかな反応条件下で種々の立体選択的炭素-炭素結合形成反応を促進し,高い光学純度の有機分子を合成できる。さらに,有機分子触媒を用いた合成反応では,製品中へ金属の混入が起こらないため、医薬品製造等のプロセスにおいて実用化が期待される。有機分子触媒は,以上の優れた特徴をもつものの,大半の報告例において,高用量の触媒(10 mol%以上)と長い反応時間(1~7日)を必要とするといった問題点を抱えており,未だ金属触媒の触媒活性には及ばないのが現状である。従って,より触媒効率が高く,幅広い不斉反応に応用可能な新規有機分子触媒の開発は,グリーンケミストリー,医薬品合成,工業化の観点からも極めて重要な研究課題の一つである。 申請者はこれまでに独自に,水素結合供与型のジアミノメチレンマロノニトリル(DMM)基を開発し,種々の不斉有機触媒反応に応用し,既存のチオウレア型,およびスクアラミド型有機分子触媒を凌ぐ,優れた触媒能を実証してきた。DMM型有機分子触媒の遷移状態を解明するために,DFT計算およびNMR解析実験を詳細に行った結果,DMM型触媒は二つの NH基 によってではなく,ベンジル位の水素原子とアミノ基による2点を含む水素結合によって,触媒活性を発現していたことが示唆された。さらに,ベンジル位を重水素化したDMM型触媒を用いた実験結果からも,ベンジル位の水素原子の遷移状態への関与が支持された。また,ベンジル位の水素原子を積極的に関与可能にしたジベンジルDMM触媒は,アルデヒドとビニルスルホンの不斉共役付加反応において,これまでで最も高い立体選択性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベンジル位の水素原子の遷移状態への関与を支持する複数の実験結果が得られている。さらに,ベンジル位の水素原子を積極的に関与可能にしたジベンジルDMM触媒の開発の成功し,分岐アルデヒドとビニルスルホンの不斉共役付加反応において,その優れた触媒活性を実証できた。以上の研究成果をまてめ,現在,欧文雑誌に投稿中であることから,概ね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次の標的反応として,未だ報告例の無い,ニトロメタンのトリフルオロメチルエノンへの不斉 Henry 反応,および,α-アンゲリカラクトンのシアノエノンへの不斉マイケル付加反応に,種々のジベンジル型DMM触媒を適用し,効率的な不斉四級炭素中心の構築法を確立する。ジベンジル型DMM型有機分子触媒を用いた不斉マイケル付加の反応条件をさらに最適化し,より少ない触媒量で短時間に目的の付加生成物を合成できる方法論を確立する。 さらに,ベンジル位水素結合供与型有機分子触媒を用いた本合成法の医薬品合成への有用性を実証すべく,ジベンジル型DMM触媒によって合成できる不斉四級炭素骨格を有する中間体から医薬品となりえる生理活性化合物を合成する。具体的な標的化合物としては,心筋梗塞治療薬として期待される(S)-emopamilをジベンジル型DMM触媒によって得られた不斉四級炭素骨格を有する中間体から合成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの国内感染拡大や緊急事態宣言発令によって,十分な実験活動ができなかったことや,発表予定の学会がオンライン開催に変更され,旅費が不要となったために,令和2年度の直接経費支出が予定より低くなった。
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