研究課題/領域番号 |
20K06954
|
研究機関 | 兵庫医療大学 |
研究代表者 |
宮部 豪人 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (10289035)
|
研究分担者 |
甲谷 繁 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (00242529)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 有機化学 / 合成反応 / ラジカル / 光触媒 / 酸化 |
研究実績の概要 |
有機合成反応にラジカルを活用する研究は、アニオンやカチオンを用いる伝統的な有機合成反応の研究と比べて、進展が遅れており、さらに、ラジカル発生に過剰の試薬を必要とするので、環境への負荷も大きい。従来のラジカル発生法は、還元的方法と酸化的方法に二分でき、いずれも過剰の試薬を用いる場合が多い。研究代表者らは、酸化剤としても還元剤としても働く光触媒に着目し、酸化的ラジカルプロセスと還元的ラジカルプロセスを同一反応系内で融合させたラジカル反応の触媒化研究に取り組んでいる。 一般に、酸化的にラジカル種を発生させるには、酢酸マンガン(III)や硝酸セリウム(IV)アンモニウムなどの有毒な酸化剤を化学量論量以上用いることが多い。研究代表者らは、有機光触媒としてRhodamine類を用いたシンナムアルデヒド類の酸化的ラジカル反応の研究を行ってきた。その成果として、シンナムアルデヒド類のアルケン部とホルミル基を部位選択的に酸化することに成功している。今年度も、有機光触媒に用いて、本反応の研究を深めた。特に、共役ケトン類のアルケン部の触媒的酸化反応を検討した結果、本酸化反応は、様々な共役ケトン類のアルケン部の酸化に適用できた。詳細に生成物を解析することにより、目的のメトキシヒドロキシ化体だけでなく、ラジカル中間体がブロモ化されたと推測されるメトキシブロモ化体も副生成することが判明した。これは、共酸化剤CCl3Brが、光触媒サイクル回転のための酸化剤としてだけでなく、ラジカル中間体をブロモ化する試薬としても作用しているためである。さらに、様々な共役ケトン類の反応を調べた結果、メトキシブロモ化体が主生成物として得られる場合があった。このように、メトキシブロモ化体の生成が観察されたことから、CCl3Brによるラジカル中間体のブロモ化が、本酸化法の重要な反応機構であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、シンナムアルデヒド類のホルミル基をケトン構造に変更した鎖状共役ケトン類のアルケン部の酸化反応を検討した。その結果、有機光触媒Rhodamine 6Gと共酸化剤CCl3Brを用いる光触媒反応条件下で、鎖状共役ケトン類のメトキシヒドロキシ化反応が進行し、メトキシヒドロキシ化されたケタール体が主生成物として得られた。同時に、メトキシブロモ化されたケトン体も少量得られた。最終生成物であるメトキシヒドロキシ化体は、必ずケタール構造を持っていたことから、メトキシブロモ化ケトンからメトキシヒドロキシ化体への変換は、ケタール化と続く水酸化物イオンによる求核置換反応の順で進行していると考えられる。次に、環状共役ケトン類のメトキシヒドロキシ化反応を検討した。驚くべきことに、環状共役ケトン類の場合は、アルケン部の単純な酸化反応ではなく、メトキシ基とヒドロキシ基が遠隔位に導入されたメトキシヒドロキシ化体が得られた。この位置選択性を理解するために、ラジカル中間体の安定性を計算した。その結果、より安定なラジカル中間体がブロモ化されたために、メトキシ基とヒドロキシ基が遠隔位に導入されたのではないかと推測された。さらに、様々な共役ケトン類の酸化反応を調べた結果、ケタールの生成が完全に抑制されるような共役ケトン類においては、メトキシブロモ化体が主生成物として得られることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
共役ケトン類のアルケン部の酸化反応に関する研究が完了したので、次に、二つの有機触媒(有機光触媒とNHC触媒)が協働するホルミル基の触媒的酸化反応を中心に研究を進める。光触媒としてはRhodamine類やEosin Yなどの有機光触媒を用い、共酸化剤をCCl3BrからC2Cl6に変えて研究を展開していく。CCl3Brは、ブレスロー中間体を酸化する酸化剤として機能しないことがわかっているが、C2Cl6は、ブレスロー中間体を直接酸化する酸化剤として機能すると考えおり、C2Cl6を用いると、ホルミル基の酸化反応は、光触媒サイクルでの酸化とC2Cl6による直接な酸化の両方で進行すると推測している。これまでに、C2Cl6を用いると、シンナムアルデヒド類の酸化的メチルエステル化反応において、目的のメチルエステル化体だけでなく、二量体も生成することが分かっている。この二量体の生成機構を参考に、本メチルエステル化の反応機構の解明に努める。また、本酸化反応には、必要な試薬や触媒の組み合わせ数が多く、用いる試薬や触媒により反応機構が変化する可能性もあるので、それらの組み合わせに注目しながら研究を進め、メチルエステル化反応の最適な反応条件を確立する。最後に、シンナムアルデヒド類だけでなく、様々なアルデヒド類のメチルエステル化反応に応用して、本反応の適用範囲を広げていく。
|