間質細胞のcomplex Vを標的とした抗がん剤の創薬化学研究

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K06956
• 研究機関: 公益財団法人微生物化学研究会
• 研究代表者: 渡辺 匠 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 部長 (80270544)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: がん－間質相互作用 / 抗がん剤リード / 医薬化学 / ペプチド系天然物 / 構造活性相関 / 呼吸鎖阻害剤

研究実績の概要

前年度までに，複雑な構造を有する異常アミノ酸側鎖の構造にも興味をもち，所属研究室で開発されてきた触媒的不斉反応四種を鍵工程としたロイシノスタチンAの全合成を達成している．また，ロイシノスタチンAががん細胞の周囲に存在する正常細胞である間質細胞由来のcomplex Vに作用し，IGF-1の分泌を抑制させることを明らかにしてきた．complex Vは抗がん剤探索における正常細胞由来の適切な分子標的となりうることが示されたので，上記全合成経路を活用した構造活性相関研究に着手した．
これまでにロイシノスタチンAを構成する各種アミノ酸のうち，活性発現に必須であるものを同定している．これを踏まえ，生物活性に対する重要性が相対的に低いアミノ酸残基，およびN末端アシル基に注目し，それぞれ入手容易なアミノ酸およびカルボン酸由来のアミドに置換することとした．多段階合成を必要とする異常アミノ酸・AHMODを含有しない類縁体については全工程を自動合成機を用いることで調製が可能である．
生物活性に関しては，前立腺がん由来のDU-145細胞の増殖について，対応する間質細胞に由来するPrSC細胞の共存下（共培養条件）における阻害強度が非共存下よりも高い化合物を同定した上で，共存下における活性強度を比較することで評価するものとした．有望な化合物についてはcomplex V阻害活性の評価も検討した．
残念ながら，現在までにロイシノスタチンAを明らかに上回る共培養条件下での増殖阻害活性を示す類縁体は得られていない．

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

初年度はコロナ禍の影響で研究時間の制限もあり合成が進まない状況にあったが、当年度は大幅にに解消された．一方で，当初検討を予定していたステープル化までは進捗しなかった．また、呼吸鎖阻害剤として並行し研究を進めている化合物についても進展があり、当該阻害剤に関し創薬ターゲットとしての適性がさらに裏付けられる結果となった．

今後の研究の推進方策

2022年度に入り，研究時間に制限が課される可能性が大幅に低下していることから，類縁体合成とそれに基づく構造活性相関研究をさらに加速させる．これまで通り各アミノ酸残基の置換による類縁体の合成を行うとともに，前年度に計画しながらも着手に至らなかったステープル化についても検討を開始する．その際，ヘリックス安定化と生物活性との相関を確認するとともにプロテアーゼに対する抵抗性も評価する．優れた効果が確認されれば，新たな類縁体設計時にはステープル化を前提とする．ステープル化が細胞膜透過性の向上に寄与する報告もあることから，complex V阻害活性の強度を十分に反映した細胞レベルでの効果も期待される．
また，ロイシノスタチンAおよびその類縁体とcomplex Vとのドッキングスタディのプラットフォームが確立されていることから，構造活性相関の考察に当該モデルの活用を検討する．類縁体設計においてより正確な構造生物学的情報が必要であると判断されれば，所属機関内にて関連研究を行う部署と協議の上で，複合体の結晶構造取得を検討する．

次年度使用額が生じた理由

本年度は緊急事態宣言発令時に合わせた研究時間の規制が行われ，初年度程ではないものの合成実験が減る結果となった．そのため，当初予定していたペプチドのステープル化等に向けた支出が発生しなかった．
また，参加予定の学会も全てオンライン開催となり，旅費が一切かからない状況が継続している．
2022年度は研究態勢の正常化が見込める状況であり，前年度までに費消できなかった消耗品費の支出を増やし，研究を加速化する予定である．

研究成果

• [雑誌論文] Mitochondrial complex I inhibitors suppress tumor growth through concomitant acidification of the intra- and extracellular environment. (2021)
  • 著者名/発表者名: Yoshida, J.; Ohishi, T.; Abe, H.; Ohba, S.; Inoue, H.; Usami, I.; Amemiya, M.; Oriez, R.; Sakashita, C.; Dan, S.; Sugawara, M.; Kawaguchi, T.; Ueno, J.; Asano, Y.; Ikeda, A.; Takamatsu, M.; Amori, G.; Kondoh, Y.; Honda, K.; Osada, H.; Noda, T.; Watanabe, T.; Shimizu, T.; Shibasaki M.; Kawada, M.
  • 雑誌名: iScience 巻: 24 ページ: 103497
  • DOI: 10.1016/j.isci.2021.103497
• [学会発表] Chemical biology of leucinostatin A and its analogs, modulators of tumor-stroma interaction. (2021)
  • 著者名/発表者名: Abe H,; Kawada, M.; Ohishi, T.; Sakashita, C.; Saqib, U.; Baig, M. S.; Ohba, S.; Inoue, H.; Watanabe, T.; Shibasaki, M.
  • 学会等名: AIMECS2021
  • 国際学会
• [学会発表] 生物活性天然物の触媒的不斉合成研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 渡辺 匠
  • 学会等名: 第65回日本薬学会関東支部大会
  • 招待講演
• [学会発表] ミトコンドリアcomplex I 阻害剤による細胞内外の酸性化を介した新規抗がん活性 (2021)
  • 著者名/発表者名: 吉田潤次郎，雨宮昌秀，立田大輔，大石智一，大庭俊一，井上裕幸，阿部 光，Raphael Oriez，渡辺 匠，柴崎正勝，川田 学
  • 学会等名: 第25回日本がん分子標的治療学会学術集会
• [備考] IMC 微生物化学研究所
  • URL: https://www.bikaken.or.jp/