研究課題/領域番号 |
20K06957
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
野田 秀俊 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 主任研究員 (40771738)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナイトレン / 医薬リード / Nーヘテロ環 |
研究実績の概要 |
本研究課題は申請者が研究開始時点で見出していた新規アルキルナイトレン発生法を基盤としている。高反応性活性種の触媒制御法開拓と新規触媒反応の開発により,既存手法では合成困難な複雑な飽和含窒素ヘテロ環状化合物の効率的供給法を提供することを狙いとする。また活性種を実験・計算の両面から追求することで,文献上ほとんど探索されていないアルキルナイトレンの性質に関し新しい基礎科学的知見を得ることも目指している。 2022年度はO-アシル環状ヒドロキシルアミンであるイソキサゾリジン-5-オンをナイトレン前駆体とする分子内炭素-水素結合挿入反応において,ロジウム触媒を用いることでジアステレオ選択的に遠隔三置換ピロリジン環が高収率にて得られることを見出した。ピロリジンは医薬品に頻出する部分構造であり,これまで数多くの合成法が報告されてきた。しかし置換基を窒素遠隔位に有するヘテロ環はヒドロキシプロリン誘導体を除くと極めて限定的である。またその置換基を立体選択的に構築する方法論はほとんど存在していなかった。本反応の高いアンチ選択性を明らかとするために量子化学計算を行った。反応プロファイルを詳細に分析した結果,三重項ナイトレンとして生成した活性種は,遷移状態前にMECPを通して一重項へと移行し,炭素-水素挿入反応へと至ることを明らかとした。またシン体を与える環状遷移状態において,置換基間の立体反発が大きいことが高いアンチ選択性の源泉であると考察した。得られた化合物中のカルボン酸はアミド基に限定されない汎用的な官能基導入への足がかりとして有用であり,多様な遠隔三置換ピロリジンを合成できた。これら化合物はこれまで困難であったケミカルスペースへのアクセス法を提供し,化合物設計における限界を緩和する成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階にてマイルストーンとしていた触媒によるジアステレオ選択性発現に関し一定の成果を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究でこれまで達成してきた化学選択性・エナンチオ選択性・ジアステレオ選択性に続き,非典型的な化学選択性の触媒制御に向けた検討を行っていく。特に脂肪族炭素-水素結合挿入反応は複雑なアルキルアミン類を供給する簡便な手法の一つであり,本反応の触媒制御を狙う。これまでロジウム触媒がCH結合挿入反応に対する活性が高いことを見出しており,既存触媒系の構造修飾を中心に検討していく。文献情報より個々の配位子構造よりも錯体全体の立体構造が反応性・選択性に重要であると推定されるため,錯体の立体構造を固定可能な配位子を設計し,得られた錯体の反応性等を評価していく。種々錯体の合成・反応性評価をハイスループット形式にて行い,得られたデータに基づいて選択性発現に重要な因子を同定していくことで高選択的な触媒の創出へと繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初想定以上に計算化学実験の研究に占める割合が多かったため,次年度使用額が生じた。一方で2022年度の世界情勢変化に伴い,ロジウム触媒の購入費が申請時点よりも大幅に上昇している。そのため次年度使用額は触媒購入に主に充当する予定である。
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