本研究課題は申請者が研究開始時点で見出していた新規アルキルナイトレン発生法を基盤としている。高反応性活性種の触媒制御法開拓と新規触媒反応の開発により,既存手法では合成困難な複雑な飽和含窒素ヘテロ環状化合物の効率的供給法を提供することを狙いとする。 2023年度はロジウム触媒を用いたナイトレン移動反応について,さらなる検討を行った。置換イソキサゾリジン-5-オンをナイトレン前駆体とする分子内CH結合挿入反応において,3位置換基質を用いた高ジアステレオ選択的なbeta-ホモプロリン合成を実現した。これまでに見出していた位置異性体である4位置換基質のbeta-プロリン合成とは異なり,ホモプロリン合成ではナイトレンの分解に起因すると想定される鎖状ケトンが副生成物として得られた。特にCH結合の反応性が低下するにつれ副生成物が顕著に増加したことから,所望の環化反応とナイトレンの分解反応は速度論的に競合していると示唆された。これは分解反応の第1段階である異性化において,3位置換基質ではより安定なケチミンを与えるためと考察される。種々の触媒について環化体と副生成物の収率を比較したところ,最適な触媒であるRh2(esp)2はナイトレン生成と環化反応のいずれの段階も大きく促進することが明らかとなった。本例はアルキルナイトレン生成を間接的に捕捉した希有な例と言える。 さらにロジウム触媒を用いた芳香環の求電子的アミノ化反応に関しても進展があった。電子豊富なヘテロ芳香環に対する環化が円滑に進行することを見出した。チオフェン,インドール,ピラゾールなどのヘテロ芳香環とピペリジンが縮環し,高度に官能基化された多環状化合物が効率的に合成可能となった。これら二環性骨格は文献上の合成例が極めて少なく,テトラヒドロキノリンのヘテロ環類縁体として創薬化学におけるビルディングブロックとして有望である。
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