研究課題/領域番号 |
20K06962
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾谷 優子 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (60451853)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質ータンパク質相互作用 / 環状ペプチド / 非天然アミノ酸 / 立体構造 / 刺激応答性 |
研究実績の概要 |
本研究課題の内容は以下の3点であった:(1)細胞のガン化に関係するタンパク質-タンパク質相互作用の一種であるp53-MDM2相互作用阻害活性を持つペプチドミミックの創製を行う。(2)環境応答的にコンホメーションを変化させるペプチドを創製する。(3)各種二環性骨格を持つアミノ酸を系統的に合成し、環状ペプチドに導入してコンホメーション制御能を調査する。これらをタンパク質ータンパク質相互作用阻害物質に応用する。 このうち、(1)は昨年度に論文化した。今年度は主に(2)の検討を行い、以下に示す成果を得たので報告する。 ペプチドの立体構造(コンホメーション)は、その生理活性や物性と深く関連している。ペプチド中に人工アミノ酸を組み込み光照射などの刺激依存的にコンホメーションを変換できれば、活性の制御等に応用できる可能性がある。今回、剛直な構造を持つベンズアニリドに着目し、光によってその立体構造(アミド結合部分のシスートランス異性体)を劇的に変化させることに成功した。具体的には、ベンズアニリドのアミド窒素上に光照射で脱保護できる置換基を導入した。これは置換基の立体効果により折れ曲がったシスアミド体のみを取るが、光照射すると窒素上の置換基が脱離し、伸長型のトランス体の構造に完全に変換されることを見出した。 さらに、本骨格を持つ人工アミノ酸を合成し、これを天然アミノ酸からなるペプチドに組み込み、環状ペプチドを合成した。光照射前は人工アミノ酸のアミド部分はシスアミド体のみを取っていたが、光照射により窒素上の置換基が脱離し、トランスアミド体へ完全に変換した。これに伴い、環状ペプチド全体のコンホメーションが大きく変化することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べたとおり、当初の計画のうち(1)と(2)に関しては順調に成果を得ている。(1)についてはすでに論文化したが、機会があればさらなる活性の向上を検討したい。(2)については、様々な刺激応答的に立体構造を変化させるアミノ酸を各種検討した結果、光反応性保護基を持つアミノ酸が高い効率で立体構造を変化させる事が分かった。今後は本結果の論文投稿を行うとともに、この光応答性アミノ酸が環状ペプチドの物性、立体構造および生物活性に与える影響についてさらに追求する予定である。(3)についてはこれまでに、二環性骨格を持ち、酸化還元反応によって立体構造(アミド結合の子スートランス異性体)を劇的に変化させる新たな分子を創製した。この分子をペプチドの立体構造制御に応用したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、光照射により立体構造を変化させる環状ペプチドの細胞膜透過性の検討と構造の多様化についてさらなる検討を行う予定である。 これまでの研究では、光反応性保護基を持つベンズアニリドをアミノ酸に応用してペプチドに組み込み、光照射により立体構造を変化させることを見出した。ペプチドの立体構造はその生物活性や安定性、物性などと大きく関係しており、立体構造を変化させることで生物活性の発現の調節や物性調節が可能になると期待される。また、環状ペプチドは非環状ペプチドと比較して立体構造が制御されやすく、高い生物活性や選択性を持つ傾向があると言われている。しかし細胞膜透過性が低いものが多い。細胞膜透過性を改善できれば、細胞内のタンパク質などに作用できる可能性がある。 そこで、2022年度は光反応性アミノ酸が物性に与える影響を重点的に調べることとした。まず、ベンズアニリドアミノ酸を組み込むことで環状ペプチドの細胞膜透過性が向上するかどうかを調べる。次に、光照射の前後で環状ペプチドの細胞膜透過性およびその他の物性が変化するかどうかを調べる。その他の物性としては、分子内水素結合の形成による水溶性の変化や、代謝酵素に対する安定性を調べる。 さらに、構造の多様化を目的として、ベンズアニリド上のアミノ基とカルボキシ基の置換位置を種々変化させた人工アミノ酸や、異なる骨格を有する光反応性アミノ酸を合成し、環状ペプチドに連結させる。これらの光反応性や立体構造変化について調べる。 これらの結果をまとめ、論文化したいと考えている。
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