研究課題
本研究では、当研究者の開発したヘリックス構造を安定に取る人工ペプチドが、細胞のガン化に関係するタンパク質―タンパク質相互作用の一種であるp53-MDM2相互作用を阻害することを示し、論文に発表した。ペプチドの立体構造は生物活性や種々の物性と深く関係するが、環境応答的にペプチドの立体構造を変化することのできる人工アミノ酸は活性や物性の制御に有用である。本研究において、光によって立体構造を大きく変える人工アミノ酸を開発した。このアミノ酸を組み込んだ環状ペプチドの立体構造を光照射により劇的に変化させることに成功した。最終年度は、この人工アミノ酸を含む環状ペプチドの細胞適用性について調査すべく、種々のアミノ酸配列を持つ環状ペプチドについて、その水溶性、膜透過性および血漿安定性を調べた。その結果、これらのペプチドは細胞適用に十分な水溶性、膜透過性および血漿安定性を持ちうることが分かった。さらに、環状ペプチドの立体構造と膜透過性の間に深い関係があることを見出した。また、光反応後の環状ペプチドは光反応前と比べて膜透過性が低下することを見出した。ペプチドは一般的に細胞膜透過性が低いため、創薬応用には困難が伴う。本研究では、ペプチドの膜透過性低下の原因の一つである親水性のペプチド結合を保護基で保護すると、膜透過性が向上することを見出した。光照射や酵素反応により、効率的に保護基が除去可能であることを示した。ペプチドの膜透過性や生体吸収性を向上させる誘導化手法として、ペプチド結合の窒素上にメチル基を導入するN-メチル化が知られているが、N-メチル化は不可逆的な誘導化手法である。今回の結果は、細胞内に入った保護ペプチドが環境応答的に脱保護され、元のペプチドを生成することに応用でき、細胞内タンパク質―タンパク質相互作用への適用可能性も秘めている。
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