研究課題
本研究では、リガンド依存的に遺伝子発現の制御を担うステロイドホルモン受容体およびビタミンD受容体を標的として、その機能を特異的に制御する化合物の創製を行う。今年度は、以下の研究成果を得た。(1)新規プロゲステロンアンタゴニストの創製:これまでに、7位にスルフォンアミド基をもつクマリン誘導体にプロゲステロンアンタゴニスト活性をみいだしており、本化合物の構造活性相関を詳細に解析した。さらに、アンドロゲンアンタゴニスト活性については、7位にcis型アミド基をもつクマリン誘導体よりもキノロン誘導体が強い活性を持つという結果をもとに、新規プロゲステロンアンタゴニストとして6-アリールキノロン誘導体を設計、合成した。その結果、6位にピロールを有するキノロン誘導体に強いプロゲステロンアンタゴニスト活性を見いだした。この時、キノロン環内の窒素原子に置換基がない場合は高濃度でアゴニスト活性を発揮するが、N-メチル体とすることでアゴニスト活性を発揮しなくなることも明らかとした。(2)新規ビタミンD誘導体の創製:これまでに、リトコール酸をリード化合物として、その数千倍の活性を有する誘導体を見いだした。本化合物の体内動態を解析した結果、血中からの消失が非常に早いことがわかった。そこで、体内動態の改善を目的に、カルボキシル基を1,3-ジオール構造に代替した化合物を設計、合成した。2種類のジアステレオマーを、リパーゼによる異性体の分離過程を経て合成する方法を確立し、目的化合物の合成を達成した。合成した1,3-ジオール誘導体の活性をヒト白血病細胞HL-60の分化誘導活性で評価したところ、リード化合物と同程度の活性を有することがわかった。また、ビタミンD受容との複合体の結晶構造解析を行い、リガンド分子の受容体結合様式を明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、多様な生理作用を有するステロイドホルモン受容体およびビタミンD受容体の機能を厳密に制御する新規モデュレーターを創製し、これらの核内受容体を標的とする医薬開発基盤を構築することを最終目的としている。今回、これまでにみいだしたプロゲステロンアンタゴニスト活性を有するクマリン誘導体をリード化合物として、その構造活性相関を詳細に明らかとした。さらに、クマリン環を、キノロン環に代替した新規アンタゴニストの創製にも至り、アゴニスト・アンタゴニスト活性発現の構造要素に関する知見を得た。ビタミンD誘導体については、新規構造を有する高活性誘導体の創製に成功しており、その詳細な活性や体内動態などを解析する予定である。
今年度の研究成果をもとに、プロゲステロン、ビタミンDおよびアンドロゲン受容体の高活性、高選択的なリガンド分子の創製を進める。プロゲステロン、アンドロゲンについては、リンカーとなる結合の立体構造や、キノロン環上の置換基が受容体選択性やアゴニスト・アンタゴニスト活性発現に関わっていることが示唆されたので、その受容体相互作用様式を解明する。また、これらの化合物をリード化合物として、系統的な化合物合成とともに、生物活性の特性、体内動態等を詳細に解明することで、医薬における有用性を明らかとする予定である。
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