カリックスアレーンはフェノールが2、6位でメチレン架橋された環状オリゴマーであり、その内部空間を生かしてホスト・ゲスト化学における代表的なホスト分子として数多くの研究がなされてきた。例えば配座がお椀型のcone型に固定されている場合、その三次元構造に由来して、置換基の配列に応じた固有のキラリティを持つ。この特徴的なキラリティを持つカリックスアレーン類の分子認識能には興味がもたれるが、中心不斉を構築する反応における不斉触媒としての評価が数例報告されているのみで、分子認識能の評価はほとんど為されていない。このような応用研究の推進に、化合物の量的供給が必須となるが、触媒的不斉合成法は欠如している。前年度、置換カリックスアレーンの部分構造であるビスアリールメタン誘導体を基質とし、キラルジアルキルアミノピリジン触媒を用いる芳香族臭素化による不斉非対称化反応を開発した。ここで鍵となったのはジアルキルアミノピリジンがフェノールの臭素化を効果的に触媒することを見出した点である。今年度はこの知見を活用した反応開発に取り組み、フェノールの臭素化による新規ロタキサン合成法を開発した。フェノール構造を有する軸成分は輪成分クラウンエーテルと水素結合錯体形成を可逆的に起こすが、形成した擬ロタキサンのフェノールオルト位が臭素化されることで、軸成分と輪成分の解離が抑制され、安定なロタキサンを生成するものである。キラル触媒を活用した分子不斉ロタキサンの不斉合成の検討も行い、中程度の選択性で生成物が得られることも見出した。さらに、分子不斉フラーレン誘導体の分子認識研究に取り組むうちに、キラルジアルキルアミノピリジン触媒が、開口フラーレン誘導体の水酸基の不斉アシル化に効果的に働くことを見出した。これによって、分子不斉開口フラーレン誘導体の効率的な触媒的速度論的光学分割法を開発することができた。
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