研究実績の概要 |
オレフィン化試薬として有機化学分野で汎用されるホーナー・ワズワース・エモンズ試薬(HWE試薬)の化学構造に着目し、HWE試薬の2個のリン原子-酸素原子単結合の両方あるいは一方の酸素原子(第2周期)をイオウ原子(第3周期)に置き換えるという戦略のもと、選択性や反応性において既存 のHWE試薬を凌駕する新規HWE型試薬の開発に取り組んだ。 令和2、3年度は、ジメチルホスホノ酢酸メチルを原料としてリン原子上に2個のオルガノチオ基が導入された3種のビス(オルガノチオ)ホスホリル酢酸メチルを合成し、ベンズアルデヒドとのHWE型反応を検討した。その結果、油状のビス(ベンジルチオ)ホスホリル酢酸メチルはナトリウムヘキサメチルジシラジド(NHMDS)条件下にZ型のα,β-不飽和エステル(E:Z = 2:98、収率84%)を与え、臭化イソプロピルマグネシウム条件下にE型のα,β-不飽和エステル(E:Z = 97:3、収率100%)を与えた。さらに、ビス(ベンジルチオ)ホスホリル酢酸メチルと各種ケテンのHWE型反応を臭化イソプロピルマグネシウム条件下に行うと、アレニルエステルが高収率で得られた。また、1,3,2-チアザホスフィナン骨格を有する光学活性HWE型試薬とケテンのHWE型反応により、アレニルエステルがエナンチオ選択的(34%ee)に生成した。 令和4年度は、固体化したビス(ベンジルチオ)ホスホリル酢酸メチル(融点約36℃)とベンズアルデヒドのHWE型反応を検討し、2個のオルガノチオ基を有する新規HWE型試薬に特徴的な水の有無によるHWE反応のE/Z選択性の逆転現象(無水条件:E選択的、含水条件:Z選択的)を見出した。研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、新規HWE型試薬におけるリン原子-イオウ原子単結合の重要性を提起するものである。
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