研究課題/領域番号 |
20K06975
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
内呂 拓実 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 教授 (00307711)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Cdc48 / p97 / VCP / デカヒドロフルオレン / 不飽和ラクタム / 全合成 / Phomapyrrolidone A / Embellicine A |
研究実績の概要 |
Cdc48/p97(VCP)に対する阻害作用をもつPhomapyrrolidone Aの世界初の不斉全合成を達成することを目的として、まずキラルなジエノフィルとシロキシジエンとのDiels-Alder反応を試みたところ、望みの立体化学をもつ環化体Ⅰを単一の成績体として得ることができた。これにジエン部位を導入したモデル化合物のIMDA反応についても検討した結果、所望のA/B-trans型の立体化学をもつ三環性デカヒドロフルオレン骨格の構築に成功した。
一方、A/B-cis型の四環性骨格をもつ類縁化合物であるEmbellicine Aの全合成にも取り組んだ結果、ジエン部位の末端にシクロペンテノン構造をもつ前駆体のIMDA反応により、A/B-cis型の四環性骨格を構築することに成功した。さらに、シクロペンテノン部位に対する共役付加反応を利用してメチル基を立体選択的に導入することにより、D環部のダブルアリル位に存在する不斉中心を構築する方法を確立することができた。この方法を上述の環化体Ⅰに適用することにより、Phomapyrrolidone AのA/B-trans型の四環性骨格を構築できる可能性が高くなったものと考えている。
また、13員環構造の内部にα,β-不飽和ラクタム部位をもつ類縁化合物であるPyrrocidine Aの全合成にも取り組んだ結果、筆者らが独自に見出した条件下での分子内Ullmann型C-Oカップリング反応を利用することにより、ラクトン型の前駆体から高度に歪んだ13員環構造をもつ環化体を得ることに成功した。さらにラクトン部位の飽和ラクタムへの変換を通じて、Pyrrocidine Bの初の全合成を達成することができた。今後、ラクタム部位の不飽和化を通じてPyrrocidine Aの初の全合成を達成することができれば、同様な不飽和ラクタム構造をもつPhomapyrrolidone Aの最終前駆体を得るための方法が確立できるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標的化合物であるPhomapyrrolidone Aとともに、類縁化合物であるEmbellicine AおよびPyrrocidine Aの全合成研究にも並行して取り組むことにより、共通の部分構造を構築する方法の開発を効率的に進めることができた。
Phomapyrrolidone AはA/B-trans型の四環性骨格を有しているのに対して、Embellicine Aは同じ平面構造をもつA/B-cis型の四環性骨格をもっている。筆者らはすでに通常のIMDA反応と立体配座規制型のIMDA反応を使い分けることにより、A/B-trans型あるいはA/B-cis型のデカヒドロフルオレン骨格を任意に作り分ける方法を確立していることから、この際の合成中間体にD環部を導入する方法を確立することが主要課題の1つであった。今回、Embellicine Aの全合成研究を通じて、あらかじめD環部を導入した前駆体のIMDA反応により、四環性骨格を一挙に構築できることが示された点は重要な研究成果であると考えている。
また、Pyrrocidine Aの全合成研究を通じて、筆者らが開発した条件下での分子内Ullmann C-Oカップリング反応により、分子内にラクトン部位をもつ13員環化成績体を高収率で得ることができた。このラクトンからわずか2工程でα,β-飽和型のγ-ヒドロキシラクタム構造をもつPyrrocidine Bを得ることに成功したことから、これら一連の方法はPhomapyrrolidone Aの全合成においても威力を発揮するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通じて得た(1)C環部位の構築法(2)IMDA反応による四環性骨格の構築法(3)D環部のダブルアリル位に存在する不斉中心の構築法(4)高度に歪んだ13員環構造の構築法を組み合わせることにより、Phomapyrrolidone Aの四環性骨格部位の合成を達成すべく検討を重ねていく。
また、先に全合成を達成したPyrrocidine BをPyrrocidine Aに導く過程において、ラクタム部位のα-β位間を効率的に不飽和化する方法論を確立しうるものと考えており、この方法をPhomapyrrolidone Aの不斉全合成にも応用していきたいと考えている。
さらに、光アフィニティーラベル法を利用した分子プローブの合成についても、IMDA反応前駆体のD環部に導入するメチル基をTBSオキシメチル基に変換することによって実現可能となる見通しが立ったことから、このようなIMDA反応前駆体を合成し、その反応性と立体選択性を確認するところから検討を開始したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、卒業研究生の研究開始が4月から6月となった結果、合成中間体の大量合成開始が当初の計画よりも遅くなった。しかしながら、その後の研究は順調に進捗しているため、次年度中に全ての金額を使用する見通しである。
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