研究課題/領域番号 |
20K06977
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
横屋 正志 明治薬科大学, 薬学部, 准教授 (50338539)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 抗がん剤 / アポトーシス / MCL-1 / イソキノリン |
研究実績の概要 |
がんは異常な細胞増殖や遠隔転移などの悪性形質を示し、1981年より日本における死因の第1位を占めている。がん薬物療法で用いられる抗がん剤の大半は、がん細胞の旺盛な分裂増殖性をターゲットとしており、がん細胞と同様に活発に増殖を繰り返している正常な細胞も誤って攻撃し、骨髄抑制などの著しい副作用を発現する。それに対し、がん細胞内でのみ異常に機能が高まっている遺伝子や、それが作り出すたんぱく質に的をしぼれば、効果も安全性も高い新たな抗がん剤が開発できる。 本研究は、ヒト濾胞性リンパ腫から見いだされたbcl-2ファミリーがん遺伝子の中で、アポトーシス抑制能を有するMCL-1に対して高選択的に阻害活性を発現する新規化学療法剤の創製をめざす研究である。昨年度合成したレニエラマイシンTの構造を単純化したモデル化合物群のMCL-1およびbcl-2に対する効果の評価を実施した。その結果、E環部にp-キノン、C環部にアミノニトリル構造をもつことが重要であり、さらに3位窒素にベンジル基を持っている化合物が、特に優れた抗がん活性を示し、さらに抗アポトーシス性タンパク質であるMCL-1の発現を選択的に阻害していることを発見した [Cancers, 12, 875 (2020)]。また、E環部にベンジルエーテルをもつ化合物群が、E環部p-キノン体よりも強い抗がん活性を示すことを新たに発見した。次にこれらベンジルエーテル化合物群とMCL-1およびbcl-2とのドッキングスタディーをおこなった。その結果、E環部p-キノン体はMCL-1をターゲットとしているのに対し、E環部ベンジルエーテル体はbcl-2をターゲットとしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、アポトーシス性タンパク質であるMCL-1選択的な阻害剤の開発を目指し、レニエラマイシンT の右半部モデル化合物を基盤とし、これまでで最も抗がん活性の強かった右半部モデル化合物の3位窒素をベンジル化した化合物の類縁体合成をおこなった。具体的にはベンジル基に存在するフェニル基の代わりにチオフェンやフェノールをもった化合物、ベンジルのメチレン鎖をエチレンへと炭素鎖を1つ伸ばした化合物など、計6種の合成をおこなった。 今年度は、合成した化合物の細胞増殖抑制試験とMCL-1やBCL-2などの抗アポトーシス性タンパク質に対する阻害活性試験をおこなった。その結果、これまでE環部の構造としてはp-キノンが最も抗がん活性が強いと考えていたが、E環部ベンジルエーテル体がより強力な抗がん活性を示すことを見いだした。これら化合物群とMCL-1およびbcl-2とのドッキングスタディーを展開中であり、更なる構造最適化によるMCL-1およびbcl-2をターゲットとした化合物の創製が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、前年度に引き続きがん細胞をアポトーシス誘導する高活性な化合物の開発を実施する。これまでは、3位窒素の置換基を強力な抗がん活性を示すレニエラマイシン類の1位置換基またはA環部に相当すると想定して様々な芳香環を持った化合物の合成をおこなってきた。その際、E環部はレニエラマイシン類のE環部に倣いp-キノンとしてきたが、昨年度合成した化合物群の活性評価の結果、E環部としてp-キノン以外での可能性を見いだした。それら化合物のドッキングスタディーの結果、これまで標的としてきたMCL-1ではなく同じ抗アポトーシス性タンパク質であるbcl-2を標的としている可能性を示唆するデータを得た。 そこで、これまでの活性評価の結果を再精査し、MCL-1およびbcl-2とのドッキングシミュレーションを組み合わせ、低濃度でがん細胞をアポトーシス誘導し、退縮させる化合物の開発を展開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金の使用用途として実験試薬の購入を予定していたが、covid-19感染拡大に伴い研究室内での3密回避をおこなう必要があった。そのため、研究時間の確保が困難であったことにより、次年度使用額が生じた。 翌年分として請求した経費は、引き続き実験試薬の購入費として使用する。
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