タイ国に生息する海洋生物の二次代謝物の探索で発見したレニエラマイシンT(RMT)をモチーフとし、構造を簡略化しつつ薬理活性構造を保持した誘導体を設計し、その構造と生物活性の関係性について探求した。RMTは5つの環が縮環した構造をもっており、それぞれの環をA環からE環と呼称することができる。本天然物の構造簡略化を目指し、ABC環やCDE環、さらにはAE環に相当する化合物群を多数合成し、がんの中でも特に発症率と死亡率が増加傾向にある肺がんのうち最も多いタイプである非小細胞肺がんをターゲットとし、がん細胞に対する効果を評価した。その結果、5つの環のうちCDE環に相当する3環部分が本系海洋天然物の抗がん活性の発現に特に重要であることが判明した。なかでもDH-25と命名したチアゾール環を導入したCDE環化合物が、肺がん細胞に対して非常に強力な抗がん活性を示すことを明らかとした。本化合物は、がんの再発や薬剤耐性への関与が指摘されているがん幹細胞にも効果があることが示された。また、がん細胞の生存と増殖に重要であり、抗がん剤の新しい標的として注目されているAkt-mTORシグナルを阻害する化合物も見いだしており、新たな抗がん剤創製に向けた有望なシード化合物を取得した。 また、上記の化合物群を合成する過程で、RMTのA環部分に存在するメチレンジオキシ環が他のレニエラマイシン類に多く含まれるメトキシキノン環の光変換により生じていることを見いだした。本知見を応用することで、可視光を利用する非常に簡便な光環化反応の開発にも成功した。
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