研究課題/領域番号 |
20K06978
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
神野 伸一郎 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (20537237)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シアニン系色素 / キサンテン系色素 / 近赤外光 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
ライソゾーム病は,ライソゾームに局在する分解酵素が欠損や構造異常をきたした結果,古くなった脂質などの老廃物が蓄積する難病であり,ひとつで複数の疾患に対して有効性を示す治療薬・治療法の開発が求められている。本研究では,新たな近赤外吸収色素を合成し,ライソゾーム病に関わる老廃物を光で物質変換できる触媒としての機能を引き出すことを目的とし実施してきた。 2020年:縮合型ローダミン系色素 (ABPX) が種々の求核剤と反応し,発色団の共役系が拡張した結果,近赤外域に光吸収,蛍光を有する縮環型シアニン系色素が生成することを見いだした。本色素のHOMO と LUMO の電子の偏りを調べ,吸収波長に対する置換基の効果を,DFT計算を用いて調べた。その結果,発色団の窒素部位にドナー(D)性の置換基,7位と7’位の炭素上にアクセプター(A)性の置換基を導入することで,更なる吸収波長の長波長化が期待できることがわかった。そこでジュロリジン(Jul) などの骨格やジクロロ安息香酸を導入した ABPX誘導体を新たに合成した。 2021年度:縮環型シアニン系色素の分離精製法を検討した。その結果,1.0% TFAを含有したメタノールと水の混合溶媒を移動相とし,ODSカラムを固定相として用いることで単離できることがわかった。2020年度に合成したABPXに対して,臭化メチルマグネシウムを作用させることで,4種の新規誘導体を合成し,光物性を調べた結果,いずれも近赤外領域に光吸収・蛍光を有していることがわかった。続いて,縮環型シアニン系色素を光触媒とし,テトラヒドロイソキノリンとニトロメタンの酸化的カップリングを検討した。20℃,空気雰囲気下,可視光 (631nm) を6時間照射し,溶媒としてDMFを用いたときに目的物が高収率で得られ,本色素が光触媒能を有していることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
縮環型シアニン系色素の合成と光触媒能を見いだしたことに加え,市販のエオシンのカルボン酸部位が架橋した構造をもつ架橋型エオシンY (BEY) を新たに合成し, 本色素を光触媒とし,DMSO 中での芳香族ジアゾニウム塩のアリール化反応を検討した。その結果,521 nm から 830 nm までの可視光や近赤外光を照射した結果,いずれの波長の光でも反応が効率よく進行することがわかった。また本光反応は,フランやピロールなどのヘテロアレーン類に加え,ピレンなどの芳香族炭化水素類,可視域に強い光吸収を有するフルオレセインを基質した反応でも進行した。本結果は,近赤外光を活用することで,基質分子の光吸収性に影響されず光反応が進行するといった,他の光触媒分子にはみられないユニークな特徴ともいえる。このように,2021年度は,複数の新規近赤外吸収色素の合成と光触媒活性の解明を達成することができ,予想以上の研究成果を得ることができた。これら色素群をシーズ化合物として,誘導体の機能解明を進めていくことで,光触媒能を有する色素分子の創出と,ライソゾーム病の新たな創薬研究に寄与する成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は,合成した色素分子の光触媒機能を解析,評価することに重点においた研究に取り組む。特に代謝異常に関わる脂質を物質変換することを目標とし,合成した色素分子を用いて,これら脂質に含まれる不飽和脂肪酸の光酸化反応の可否を明らかにする。また反応の基質適用範囲を拡げるには,基質と色素の酸化還元電位の大小を考慮することが必須である。そこで不飽和脂肪酸やスフィンゴシン骨格をもつ脂質,コレステロール類の酸化還元電位を電気化学的測定装置で網羅的に調べ,色素分子の酸化と還元電位に相当する HOMOと LUMOのエネルギー値と比較する。そして基質となる脂質に対して,適切な酸化還元剤の組み合わせを調べることで,基質適用範囲の広い触媒分子を論理的に合成するとともに,脂質を触媒的に誘導・分解する光反応系の構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現有保有物品で対応したため使用予定金額より少なかった。次年度は研究をさらに推進するために予定通りの支出を計画している。
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