研究課題/領域番号 |
20K06982
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
大塚 安成 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (00778219)
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研究分担者 |
高橋 良昭 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 部長 (70171535)
五十嵐 雅之 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 部長 (40260137)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 抗生物質 / アミノグリコシド / 構造活性相関 / 多剤耐性グラム陰性菌 / カルバペネム耐性 |
研究実績の概要 |
多剤耐性グラム陰性菌の出現と蔓延は世界中で社会問題となっている.特にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE),カルバペネム耐性緑膿菌,カルバペネム耐性アシネトバクターによる感染症は治療法が限られており早急な対策が求められている.CREの多くは16S rRNAメチル化転位酵素を産生しており,臨床で用いられている全てのアミノグリコシド系抗生物質に高度耐性を示す.我々は天然物butirosin Bが,16S rRNAメチル化転位酵素産生菌に効果を発揮することを見出しており,多剤耐性グラム陰性菌に有効な次世代型アミノグリコシド抗菌剤の創製を目的に,butirosin Bを基盤とした創薬研究を実施した.Butirosin Bはribostamycinの1位アミノ基にアミド側鎖が導入された構造を有している.Ribostamycinは容易に入手可能なので,これを原料としてアミノ基,水酸基の選択的修飾方法を確立した.さらにribostamycinの1位アミノ基にアミド側鎖を導入しbutirosin Bの合成を行うと共に,butirosin Bの合成中間体に対して種々の置換基の導入を行った.合成した化合物の中で,適切な化学修飾を施した誘導体は,16S rRNAメチル化転位酵素産生菌に対して抗菌力を発揮することが明らかとなった.なお親化合物として用いているribostamycinは本耐性菌に無効であり,適切な箇所の修飾が社会問題となっているCREに対する抗菌力に大きな影響を与えることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)が産出する16S rRNAメチル化転位酵素は,アミノグリコシドの標的結合部位のメチル化に由来するリボソームへの結合阻害を惹起して耐性を獲得する.1990年代までにアミノグリコシド修飾不活化酵素と,その耐性機構に打ち勝つ化学構造の変換方法は解明されたものの,16S rRNAメチル化転位酵素産生菌の耐性機構と化学構造との関わりは未解明であり,耐性菌を克服する普遍的な化学修飾法は確立されていない.我々はbutirosin Bの部分構造を有するribostamycinを原料とした構造活性相関研究を実施する過程で,アミノ配糖体の然るべき位置のシンプルな化学修飾が,本耐性菌の克服に繋がり得る知見を得るに至った.即ち,butirosin Bの部分構造を有するribostamycinを出発原料として,その1位アミノ基にアミド側鎖を導入しbutirosin Bを合成した.さらにbutirosin Bの合成中間体に対して種々の化学修飾を実施した.その結果,合成した誘導体が16S rRNAメチル化転位酵素産生菌に対して抗菌力を発揮しており,本耐性菌に対する活性発現に必須の構造箇所が明らかになりつつある.
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今後の研究の推進方策 |
現状の課題は合成したbutirosin B誘導体の抗菌力の増強,及びより効率的な誘導体合成方法の確立である.即ち,16S rRNAメチル化転位酵素を産生するカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)に対して抗菌力を発揮する誘導体の合成に成功しているものの,次世代型のアミノグリコシド抗菌剤に飛翔させるには,本耐性菌に対するさらなる活性向上が必要である.加えて他のアミノグリコシド修飾不活化酵素産生菌に対する活性も改善の余地がある.合成方法に関してはbutirosin Bのリボース部位が酸により除去されやすく,このことが誘導体合成の収率低下に繋がっている.新たな保護基の適用及び反応条件の精査により合成収率の向上を試みる.その後,他の半合成アミノ配糖体抗生物質の化学修飾において有効とされた手法を適用し,それらの誘導体が16S rRNAメチル化転位酵素産生菌に効果を発揮するか調査する.具体的にはbutirosin Bにおける3’位,4’位ジデオキシ化,6’位ジメチルアミノ化,5”位アミノ化などを実施し,アミノグリコシド修飾不活化酵素の影響を受けず,かつ抗菌力の向上が見込まれるribostamycin誘導体,butirosin B誘導体を合成する.これらの誘導体の16S rRNAメチル化転位酵素産生菌に対する活性への影響を調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年4月に研究代表者の所属する研究所が変更することになった.反応性の試薬類などは研究所の移転の際に運搬できないため,一時的に誘導体合成を中断した。この間,誘導体合成で得られたマイナー生成物の構造解析を重点的に行い,リボース部位の切断に起因する反応が,誘導体合成における主な問題であることを明らかにした.2021年度に研究代表者が新たに所属する場所にて本科研費課題を再開するにあたり,これらの反応生成物の知見を生かしより効率的な合成ルートの開拓を試みる.具体的には2021年度に反応性試薬及び新たな保護基を導入する試薬を購入し,リボース部位の切断を最小限に抑える効率的な誘導体合成を開始する.
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