研究実績の概要 |
炭素―金属σ結合を持つ有機金属化合物は、精密有機合成において炭素-炭素形成反応を担う化学種として多用されることから、多様な金属元素の特性を活かした新しい有機金属種の開発と、それらを用いる新反応の開発は非常に重要である。本研究では、希土類錯体の持つ高いヘテロ原子親和性とC-H 結合切断活性を生かし、希土類触媒によるC-H結合活性化を利用した有機アルミニウム種の新しい発生法の開発と利用を主要な目的として開発を進めている。本年度の研究では、まず、予備的研究で見いだした2,6-ルチジンなど対称構造を持つ2,6-二置換ピリジン類のベンジル位C-H結合アルミ化の反応条件である、ハーフサンドイッチ型イットリウムビスアルキル触媒存在下に、トリイソブチルアルミニウムを作用させる方法について、非対称構造やハロゲンなどの反応性置換基を持つ2,6-二置換ピリジン類や、2,6-二置換ピリジンの部分構造を持つ多環式化合物など様々な基質において適用範囲を調べた。その結果、反応性の臭素置換基や、配位性のベンジルオキシ置換基を持つ基質においても、反応は窒素原子に隣接したベンジル位C-H結合上で円滑に進行した。また、非対称2,6-二置換ピリジン類では、より立体的に空いたベンジル位C-H結合上で位置選択的にモノアルミ化が進行した。さらには、2,6位の置換基がメチレン炭素である対称性基質でも、一方のベンジル位C-H結合上のみで選択的に、モノアルミ化が可能であった。続いて、生成した有機アルミニウム種の反応を検討したところ、酸素雰囲気下にて容易に対応するアルコール体を与えた。さらに、この有機アルミニウム種と有機求電子剤との間で、炭素-炭素結合形成を試みたところ、触媒量の[IPr(CuCl)]存在下に、臭化アリル、臭化ベンジルとのクロスカップリング反応が進行し、形式的C-H結合のアリル化、ベンジル化が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、有機アルミニウム種の新規調製法の開発と、それを利用した炭素-炭素結合形成反応の開発について、(1)2,6-二置換ピリジン類のC-Hアルミ化反応における基礎的研究、(2)ピリジン置換基を持つベンジルアルミニウム種を用いた炭素-炭素結合形成反応の開発、を主として研究を進め、(3)ピリジル系以外の基質への適用範囲の拡大やC-H結合活性化を利用した有機亜鉛試薬調製法などの開発も行うことを計画している。本年度はまず、研究(1)について、従来の予備的研究によって見いだした反応条件を、様々な基質に適用し、その適用範囲について詳細な検討を進めた結果、対称、非対称構造を問わず、広い範囲の基質において、位置選択的なベンジル位C-Hアルミ化反応が進行することを明らかとした。さらに、反応性の臭素置換基も本反応条件において共存可能で有り、ベンジルオキシ基のような配位性官能基も位置選択性に影響を与えないことがわかった。これらは、目的とする新規有機アルミ種の生成法開発とそれを利用した新しい有機合成反応の開発に向けた重要な成果である。 一方、研究(2)においては、まず、銅塩を触媒として用いる炭素-炭素形成反応について検討をおこなった結果、 [IPr(CuCl)]を触媒として用いることで、C-Hアルミ化反応で調製した有機アルミニウム種と臭化アリル、臭化ベンジルの間で、クロスカップリング反応が進行することがわかった。これは2,6-ジメチルピリジン類の形式的C-Hアリル化、ベンジル化が進行したことを意味する。現在の、銅触媒の利用では、カップリングパートナーが限定されるが、本結果は目的とするピリジン置換基を持つベンジルアルミニウム種を用いた炭素-炭素結合形成反応の開発の一つとなる重要な成果である。
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