研究課題/領域番号 |
20K06983
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
瀧本 真徳 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50312377)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | C-H活性化 / 有機アルミニウム / 有機希土類 / クロスカップリング |
研究実績の概要 |
有機金属化合物は、炭素-炭素結合形成反応への利用が可能な重要な化学種の一つであり、新しい有機金属種の開発と、新しい炭素-炭素結合形成反応への利用は、有機合成化学において重要な研究課題である。本研究では、希土類錯体の特性を活かした、C-H結合活性化を経る有機アルミニウム種の新しい発生法の開発と、得られた有機アルミ種の有機合成への利用を進めている。昨年度までの研究では、様々な2,6-ジアルキルピリジン類に、ハーフサンドイッチ型イットリウムビスアルキル触媒存在下に、トリイソブチルアルミニウムを作用させると、オルト位アルキル基のベンジル位にて選択的にC-H結合のアルミ化反応が進行し対応する有機アルミニウム種(C-Hアルミ化体)が生成することを見いだしている。また、生成したC-Hアルミ化体は [IPr(CuCl)]触媒存在下に、臭化アリル、臭化ベンジルとクロスカップリング反応が進行し、C-H結合の形式的アリル化、ベンジル化が可能であった。本年度の研究では、C-C結合形成の適用範囲を拡大すべく、C-Hアルミ化体と芳香族ヨウ化物(Ar-I)を用いたパラジウム触媒によるアリール化反応を検討した。この反応では、C-Hアルミ化体種は2種、3個の異なるアルキル基を持ち、ピリジン環を持つベンジル基を選択的に反応させる必要があること、また、複雑なアルキル基を持つ有機アルミ種のクロスカップリング反応例は少なく、反応条件の設定が困難であるという課題があった。しかし、詳細な検討の結果、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウムを触媒として用い、0.5当量のCuIを添加すると、1.5当量のAr-Iにて円滑に反応が進行し、目的物を与えることを見いだした。さらに、Ar-Iの適用範囲の検討も進め、官能基を有するAr基を含む様々なAr基の導入に成功した。さらに、これらの手法を非対称2,6-ジアルキルピリジン類の合成にも適用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、有機アルミニウム種の新規調製法の開発と、それを利用した炭素-炭素結合形成反応の開発について、(1)2,6-ジアルキルピリジン類のC-Hアルミ化反応における基礎的研究、(2)ピリジン置換基を持つベンジルアルミニウム種を用いた炭素-炭素結合形成反応の開発、を主目的として研究を進めることを計画した。昨年度は研究(1)ハーフサンドイッチ型イットリウムビスアルキル触媒存在下に、トリイソブチルアルミニウムを作用させる反応条件を見いだし、対称、非対称構造を問わず、広い範囲の基質において、位置選択的なベンジル位C-Hアルミ化反応が進行することを明らかとした。さらに、反応性の高い臭素置換基や配位性のベンジルオキシ基のような官能基も反応に影響を与えないことを明らかとしている。これらは、目的とする新規有機アルミ種(C-Hアルミ化体)の生成法を実現した重要な成果である。 一方、研究(2)においては、昨年度の研究において、 [IPr(CuCl)]触媒存在下、C-Hアルミ化体と臭化アリル、臭化ベンジルの間での、クロスカップリング反応を実現した。一方、本年度は、パラジウム触媒によるヨウ化アリールを用いるC-Hアルミ化体のアリール化反応を検討し、CuIの共存化、パラジウム触媒を用いる反応系の確率に成功した。本系では、官能基を有するアリール基など、様々なアリール基の導入が可能であり、これにより、目的とするピリジン置換基を持つベンジルアルミニウム種を用いた炭素-炭素結合形成反応の適用範囲を大きく拡大することに成功した。本反応のように、複雑なアルキル基を持つ有機アルミ種のクロスカップリング反応の報告例は非常に少なく、また、本反応ではアルミニウム状の異なるアルキル基のうち、ピリジル基を有するアルキル基を選択的に反応させることに成功しており、学術的に重要な成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2020-21年度の成果を総括するため、各種データの収集等を完了し、研究成果を国際学術誌へ詳報論文として投稿する。以上、これまでの研究に加え、以下の研究を推進したい。 提案者は、構造様式は異なるものの、アルケニル、アリール、アリル型の有機アルミニウム種においては、銅触媒存在下に二酸化炭素を炭素源とするカルボキシル化反応が進行することを報告している。そこで、2022年度の研究では、まず、本課題で開発に成功した、ピリジル基を有する有機アルミ種においても、同様のカルボキシ化反応を試みる。 さらに、キノリンやアニリン、アニソール類、三級アミン、チオエーテル類など様々なヘテロ官能をもつ基質において、今回開発したC-Hアルミ化の手法が適用可能かどうかを検証する。また、上記の研究が順調に進展した際は、one-pot炭素-炭素結合形成反応への展開を検討する。また、ヘテロ原子を持つ基質において、トリイソブチルアルミニウムの代わりに有機亜鉛試薬や、有機ケイ素、有機ホウ素反応材を用いた、C-Hメタル化反応と炭素-炭素結合形成反応への展開についても、様々な希土類触媒系を用いて検討をおこなう。
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