研究課題/領域番号 |
20K06984
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
佐藤 勝彦 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (80400266)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノポア / イオン電流 / TDM / ニトロキシルラジカル / フェニルボロン酸 |
研究実績の概要 |
先端径がナノメートルサイズのナノポアピペットに種々の化学修飾を行い、イオン電流変化を指標としたセンシングシステムを確立することを目的に研究を行った。これにより、これまで濃度変化を電気信号の変化として検出することが困難であった薬剤に対する簡易測定法を開発し、最終的には少量の血液や尿をリアルタイムで高感度に定量可能とする。イオン電流計測は、検出原理としてピペット先端の電気的および物理的変化を鋭敏にとらえ電気化学信号に変換することができる。このため、さまざまな分子間相互作用が利用可能であり、検出対象となる分子種が飛躍的に増加する。さらに、ナノピペットにおいては電極の微小化がシグナル減少とはならず、微小量分析にも有用である。本年度は下記について研究を行った。 前年度に、合成高分子をナノポア先端に修飾することでナノメートルサイズのpHセンサーを作製することに成功した。この合成高分子表面に、さらに酵素を固定化することで酵素反応に由来するpH変化から基質濃度を測定することを検討した。モデル酵素としてグルコースオキシダーゼ(GOx)を用いた(GOxは酵素反応によりH+イオンを生成しpHを酸性方向に変化させる)。ナノポア表面への効果的固定化方法を検討し、糖鎖-レクチン結合を利用したLbL法による修飾が最も有効であることが分かった。現在は実際にナノポア表面に修飾しイオン電流計測を試みている。 また、他の分子認識機構として、フェニルボロン酸誘導体および、ニトロキシルラジカル誘導体をナノポア計測に応用することを検討した。それぞれ、ジオール構造を有する薬物、アルコール基を薬物をターゲットとしている。これらは、合成高分子として被覆する方法、Au-S結合による固定化、電解重合による固定化など検討し各薬物に対して別の計測方法と合わせて個別に調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナノポア表面のpH状態の評価法を確立したので、次に酵素反応を組み合わせることを検討した。モデル酵素としてグルコースオキシダーゼを用いて、ナノポアピペットへの固定化を行ったが、イオン電流計測の再現性がとれなかった。この原因は、主に酵素の固定化量に由来することが分かったので、再現性のある固定化方法を検討した。種々の方法を検討し固定化方法が確立したので実際にイオン電流計測を行う。 フェニルボロン酸誘導体および、ニトロキシルラジカル誘導体をナノポア計測に応用することを検討した。一般的なニトロキシルラジカル触媒であるTEMPOを用いてでは生理条件下において反応性が乏しいため、ビシクロ骨格を利用した高活性なニトロキシルラジカル触媒の開発と種々の薬剤に対する反応性を評価し、電気化学的に高活性なニトロキシルラジカルのスクリーニングは完了した。しかし、これらの誘導体の有機合成が難しくガラス基板上面への固定化、および安定した反応を得るには至っていない。また、フェニルボロン酸誘導体に関しては同様の研究が他の研究チームから発表されたため、より高性能化に向けた試みを現在も続けている。
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今後の研究の推進方策 |
ナノポアピペット表面への酵素の効果的な固定化方法を確立したので、実際にグルコースオキシダーゼを修飾してナノメートルスケールのグルコースセンサーを作製する。この知見をもとにペニシリンオキシダーゼに応用しペニシリンセンサーの開発を試みる。新たに合成した、ニトロキシルラジカル誘導体を用いて電解重合法による固定化を行い、ナノポアセンシングを試みる。また、TEMPOにおいても効果的な計測方法を見出したためこれもイオン電流計測に応用する。副産物的に得られたこれらの知見をまとめて論文として報告する予定である。フェニルボロン酸誘導体、およびゲスト-ホスト化合物を使った薬物計測を試みる。フェニルボロン酸誘導体はジオール化合物と結合し、立体的および電気的な性質が変化する。ホスト化合物は空孔内にゲスト分子を取り込む性質がある。これらのことを利用して様々な分析手法が考案されたが、シグナル取得に工夫が必要であった。特に電気信号として取り出す場合には精密な分子デザインと煩雑な有機合成が必要であった。イオン電流計測では、これらの相互作用を容易に電気信号として取り出すことが可能である。本研究では、合成高分子に修飾し固定化する方法、およびAu-S結合による固定化法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年に引き続きコロナ禍により研究活動を十分に行うことが出来なかったため次年度使用額に変更が生じた。また交付決定後の予算の減額により予定していた機器の購入をあきらめたことも原因である。次年度は、研究を進めるためにこの予算でアルバイトの学生を雇用する予定である。また、可能であれば共同研究者の施設に赴いて購入をあきらめた機器分析を集中的に行い、研究を進めたい。
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