研究課題/領域番号 |
20K06990
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
東 達也 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (90272963)
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研究分担者 |
石毛 崇之 千葉大学, 医学部附属病院, 臨床検査技師 (30757315)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 検体・項目多重化 / ハイスループット / 原発性アルドステロン症 / LC/MS / 臨床検査 / 誘導体化 |
研究実績の概要 |
超選択的副腎静脈採血法(super-selective Adrenal Venous Sampling,ssAVS)と検体・項目多重化(Sample and Analyte-Multiplexing, SAM)技術を組み合わせた,原発性アルドステロン症(PA)の新規ハイスループット検査手法の開発を試みた. 荷電構造の異なるGirard試薬3種とそれらのアイソトポログ(重水素標識体)の計6種の試薬を合成し,それらを高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC/ESI-MS/MS)によるssAVS試料(血清)中のアルドステロン(ALD)定量に導入した.その結果,左右副腎のそれぞれ3支脈のssAVS試料中ALD濃度を1回のLC/ESI-MS/MS運転で測定することに成功した.各種バリデーション試験を行ったところ,本法は精度及び正確度に優れ,血清マトリックスによる影響も無視できることが証明された.本法は1回の測定で6つのssAVS試料のALD定量が可能なことから,試料間の直接比較が可能で,ALD産生腫瘍(APA)に代表されるALD過剰産生部位の特定が可能であった.すなわち,片側性PAと診断された患者4人から得られたssAVS試料を分析したところ,血清ALD濃度が異常高値を示す試料が見つかり,それらの採取部位は,摘除後の病理検査でAPAが検出された部位と完全に一致した.このように開発した方法は,ssAVSと組み合わせることにより,PAの病型(片側性または両側性)や病変部位の特定に有用であることが明らかとなった.また,4人の患者のssAVS試料(4×6=24試料)の前処理後の分析時間は,1検体ずつ測定する従来法のそれと比べて,約40%であり,大幅な時間短縮,すなわち,スループットの向上も達成された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,ssAVS試料中ALDの6検体一括定量法を開発し,各種バリデーション試験を終え,実用性の評価試験に入ることができた.すなわち,本研究課題の鍵要素であるSAM技術のための6種のGirard試薬を合成し,誘導体化条件を決定した.また,ssAVS試料の前処理法,各誘導体の分離や至適SRMを含めたLC/ESI-MS/MS条件なども確立した.さらに,精度,正確度,マトリックス効果,回収率,希釈効果など,FDAガイドラインに基づくバリデーション試験も終えることができた.現在,臨床検体への適用が4例と少ないが,次年度には例数を増やしてより詳細に実用性を吟味する予定である.そのためのssAVS検体については共同研究先から入手できる目途がついている.臨床検体の測定が終わり,良好な結果が得られれば,論文化する予定である.このように,2020年当初の計画に沿って実験を進め,概ね目的の成果が得られた. 以上を総合し,研究は「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
PAに関する研究について,2020年度に完了できなかった臨床検体を用いた実用性評価を進める.そして成果をまとめ,論文として公表する. 次に当初の計画に基づき,2021年度は加齢男性性腺低下症候群(LOH症候群)の第一診断指標である血清テストステロン (TST) と診断確度を向上させるデヒドロエピアンドロステロンサルフェート (DHEAS) の同時・多検体一括測定法を開発する.上記のPAの研究でALD測定に用いた,あるいはこれまでに合成したGirard試薬の中から,DHEASをESI(+)モードで高感度に応答させ,TSTとの同時測定に適した6種を選抜する.次に6検体を除タンパク後,選抜した試薬で処理し,SAM測定系を確立する.各種バリデーション試験を実施し,分析時間や精度などから実用性を評価する. さらにエストロゲン用の誘導体化試薬の探索を開始する.Cookson型試薬はビタミンD代謝物と定量的に反応し,LC/ESI-MS/MSで良好な結果を与えることが分かっているが,エストロゲン分析への応用も期待されている.すなわち,Cookson型試薬のフェノール性水酸基のオルト位への付加反応による新規誘導体化法への適用である.そこでPTAD,DAPTADなどとエストラジオールとの反応について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)実験にかかる消耗品は当初の計画に基づき必要なものを購入し,研究も概ね順調に進んだ.このため,物品費のみでは当初の予定額をわずかながら上回った.一方,新型コロナ感染症の影響で参加予定であった学会がオンライン開催となり,旅費の支出がなくなった.両者を合わせると,結果として5万円弱の繰越が生じ,これは次年度にて以下に記すように有効に使用する予定である. (使用計画) 2020年度の繰越額については,2021年度分の助成額と合わせて,試薬,溶媒などの消耗品費として使用する.2021年度はLOH症候群の検査法開発の研究を第一に進め,2020年度からの継続(未完了分)としてPA検査法の実用化に関する実験(PA患者の検体測定)を同時に行う.
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