本研究では、ヒト血清アルブミン(HSA)によるナノ粒子表面の被覆状態の違いが、細網内皮系による捕捉の回避(ステルス化)ならびに抗腫瘍効果にどのように影響するかを検討し、効果的な抗がん剤治療を可能にするHSA被覆ステルス化ナノ粒子を開発することを目的としている。 本年度は、HSA被覆ナノ粒子の調製とその薬物動態特性の全体像の把握を目的として検討を行った。まず、HSAをエタノール中で粒子化させた後、架橋剤(グルタルアルデヒド)で粒子を安定化したナノ粒子(平均粒子径100~110 nm)を調製し、これをCy5で標識した。さらに、この粒子表面を、二官能性架橋剤(NHSエステルとマレイミド基を両端に有する架橋剤)を用いて1粒子あたり平均12、34および81 分子のHSAで被覆した。これら被覆率の異なるナノ粒子を正常マウスに静脈内投与し、in vivo発光・蛍光イメージング装置(IVIS)により、経時的な臓器分布の変化を確認したところ、被覆率依存的に肝臓における蛍光強度(ナノ粒子の臓器分布の指標)が低下する傾向が確認された。また、マクロファージとしてRAW264.7を用いたin vitro取り込み実験においても、被覆率依存的な取り込みの抑制が示された一方、高被覆率では抑制効果が頭打ちする傾向が認められた。 このように、細網内皮系によるナノ粒子の捕捉の回避(ステルス化)にHSAの被覆が有用である可能性に加え、ナノ粒子表面におけるHSAの被覆状態がステルス効果に重要な因子になっている可能性が示唆された。
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